【MM2H情報】知っときたい 馬国政府と議会<5>

MM2H

この記事は、本編【MM2H体験】の関連記事です。馬国の「おすすめ情報」まとめ記事はこちらです。

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多くの日本企業が投資対象として検討するマレーシア。以前、マハティール首相が提唱した東方政策で多くの留学生が日本で学んできたマレーシア。そして、MM2Hを通して多くの日本人が長期滞在先として選択するマレーシアですが、

この国の政治、特に憲法に関する分野については、日本人はマレーシアから意識的にかなりの距離を置いています。

その理由は、他ならぬマレーシアのイスラム文化と宗教が、日本の独特の宗教観と大きく「違う」という認識や、長い英国統治の末に独立した「旧英国領マラヤ」の歴史なのかもしれません。

英国統治は、既に過去の話であり、マレーシアの今を考える時に、あまり拘る問題ではありませんが、イスラムについて、本当のところ、マレーシアの国とイスラムとの関係はどのように定義されているのか?

筆 者
筆 者

我々日本人は、マレーシアという国がイスラムの宗教によってガチガチに縛られている国だと誤解してはいないでしょうか?

実際にこの国の憲法を読んでみると、驚くほど自由と権利が保証されている国だと解ります。

日本の憲法の来歴と比べてみてください。

これは、宗教論ではなくて、もっと単純に、国を治めるという意味での、源流にある「マレーシア国憲法」がどのように起草されて、その中でイスラム多民族社会がどのように定義されているかという意味で、よく知っておくべきことだと思うのです。

例えば、私たちは、マレーシアの国教がイスラム教であることは、十分理解していますが、その一方で、マレーシア憲法が第11条で、「宗教の自由」が保証されていることをはっきりと意識できていません。

第11条を要約すると次のような趣旨になります

第11条において、全ての人々は自らの宗教を信仰・活動する権利が認められている。また、全ての人々は自らの宗教を広める権利を持つ。但し、この権利は、州法ないしは連邦直轄地区での連邦法によりイスラムを信仰する人々への布教だけは例外される。ムスリム以外の人々に対して布教を行う自由は認められている。

Article 11 – Freedom of religion

Article 11 provides that every person has the right to profess and practice his own religion. Every person has the right to propagate his religion, but state law and, in respect of the Federal Territories, federal law may control or restrict the propagation of any religious doctrine or belief among Muslims. There is, however, freedom to carry on missionary work among non-Muslims.

要約(日本文)は筆者が個人的に邦訳を試みたものであり、認証された正式な要約ではありません。内容の検証についてはあくまでも英文を検討ください。筆者の要約に起因する損害等は全て免責とさせていただきます。英文の出典は wikipedia “Constitution of Malaysia” です。

この部分を理解すれば、マレーシアが如何にイスラム以外の宗教と信仰に配慮してきているか解ります。

宗教以外の分野でも、外国人がMM2Hを利用する上で、無知でいるべきではないいくつかの憲法上の原則があります。

正直なところ、筆者は、馬国憲法を知らずにマレーシアで生活してきて、なんら問題に巻き込まれる場面には遭遇しませんでしたが、

一方で、「これはよくわからない」ので考えたり関わったり話し合うことを「パス」したことはあります。

恐らく、マレーシア人の中にもこの国の憲法を充分理解していない人々は居るのではないでしょうか?(日本の憲法を知らない日本人が居るのと同じ認識)

photo of Malaysian Flag by envato elements (all rights resereved)
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馬国憲法の来歴

1957年の独立の直前に起草された馬国の憲法については、独立前の領主であった大英帝国の影響を少なからず受けていたことは周知のことですが、それでも、英国は憲法起草に第三国の有識者を含めた委員会を設置したり、当時の馬国のリーダーの要望を充分受け入れる活動を行ったことが史実として残っています。

筆 者
筆 者

日本の憲法が、大戦後のGHQ管理下で、無条件降伏した日本に対する圧倒的な米国主導の法案を基盤として発足したことと比べれば、馬国憲法ははるかに馬国民の宗教・文化・民意を理解・支援する環境で起草されたと感じます。皆さんはどう思いますか?

次の歴史的経緯を考えてみましょう・・・

Consstitutional Conference (憲法会議)

1956年1月18日から2月6日まで、英国はロンドンで、マラヤ連邦の代表団が参加して、憲法会議が開催されました。代表団は、マラヤ連邦首相(Tunku Abdul Rahman)と他の3人の大臣で、当時の英国高等弁務官とその顧問も参加しました。

Reid Commission(リード委員会)

この会議は、マラヤ連邦が完全な自治権を持ち、独立した国としての憲法を策定するための委員会として提案され、当時のエリザベス2世女王マラヤの統治者によって受け入れられました。

筆 者
筆 者

このような第3者的委員会は、日本の憲法起草時点には無かったものです。

これに基づき、コモンウェルス諸国の憲法専門家からなるリード委員会が設立され、委員長には当時英国の名誉判事であったLord (William) Reid卿が指名されました。委員会の報告書は1957年2月11日に完成しました。報告書は、英国政府、統治者会議、マラヤ連邦政府によって任命された作業部会によって検討され、その推奨に基づいてマレーシアの連邦憲法が制定されたのです。

以下は委員会のメンバー

  • Lord Reid – United Kingdom (Chairman)
  • Sir Ivor Jennings – United Kingdom
  • Sir William McKell – Australia
  • Hakim B. Malik – India
  • Sheikh Hakim Halim bin Abdul Hamid – Pakistan
  • もう一人、カナダの専門家も選ばれたのですが、病欠しています。
photo from wikipedia “Constitution of Malaysia”

国名「マレーシア」と憲法の関係

憲法は1957年8月27日に施行されましたが、正式な独立は31日です。

1963年に、この憲法は改正されました。この時、サバ州、サラワク州、シンガポールをマラヤ連邦の加盟州として認め、連邦の名称を「マレーシア」に変更することが含まれています。

したがって、法的には、(東マレーシアとシンガポールを含む)マレーシアという国体の設立というのは、新しい国家を創設したというより、1957年の憲法によって定義された連邦に新しい加盟州を追加し、名称を変更することで成し遂げられました。

シンガポールが、1965年にマレーシアから分離独立する運命を辿ったことはご承知の通りです。

基本的自由の原則

マレーシア国民の基本的自由は、憲法の第5条から第13条で定められています。内容は次の通り

人の自由、奴隷制や強制労働の禁止、遡及的な刑法や繰り返しの裁判の禁止、平等、追放の禁止、移動の自由、言論、集会、結社の自由、宗教の自由、教育に関する権利、財産に関する権利。

これらの自由や権利のいくつかには制限や例外があり、外国人には適用されないものがあります。具体的には、Article 10(1)の主語は “all people” ではなく “all citizen” に限定されています。

  • (a) every citizen has the right to freedom of speech and expression;
  • (b) all citizens have the right to assemble peaceably and without arms;
  • (c) all citizens have the right to form associations.

つまり、外国人には、発言の自由、集会の自由、組織化の自由は保証されておらず、その詳細は立法府が定める法律に依存します。

国の安全保障のためには、外国人の集会や組織を制限するのは当然のこと(日本も気をつけている) image photo by envato elements (all rights resereved)

Article 11 の全文

Article 11

(1) Every person has the right to profess and practice his religion and, subject to clause (4), to propagate it.

全ての人は、下記(4)項に反しない限りにおいて、自由に宗教を信仰し宗教活動を行う権利を持つ。

(2) No person shall be compelled to pay any tax the proceeds of which are specially allocated in whole or in part for the purposes of a religion other than his own.

全ての人は、宗教を目的とする税金を払う義務を負わない。但し、自分自身の目的で税負担をする場合はこの限りではない。

(3) Every religious group has the right—

(a) to manage its own religious affairs;

全ての宗教団体は独自の宗教活動を管理する権利を持つ

(b) to establish and maintain institutions for religious or charitable purposes; and

全ての宗教団体は宗教的、あるいは慈善目的の制度を設立・保守する権利を持つ

(c) to acquire and own property and hold and administer it in accordance with law.

全ての宗教団体は自らの財産を、合法的に保有・管理する権利を持つ

(4) State law and in respect of the Federal Territories of Kuala Lumpur and Labuan, federal law may control or restrict the propagation of any religious doctrine or belief among persons professing the religion of Islam.

州法、ないしは連邦法はイスラムを信仰する人々の場において他の宗教の布教を制限することができる。

(5) This Article does not authorize any act contrary to any general law relating to public order, public health or morality.

この憲法11条は、公的な秩序、健康、道徳関する一般法に反するような行為を認めるものではない。

訳文(日本文)は筆者が個人的に邦訳を試みたものであり、認証された正式な訳文ではありません。内容の検証についてはあくまでも英文を検討ください。筆者の訳文に起因する損害等は全て免責とさせていただきます。英文の出典は wikipedia “Constitution of Malaysia” 並びにWikisource の “Constitution of Malaysia” です。

最後まで参照いただき、ありがとうございます。

次回は、連邦議会の立法と、連邦の各州の州法の関係を明らかにします。この記事は、本編【MM2H体験】の関連記事です。馬国の「おすすめ情報」まとめ記事はこちらです。

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