この記事は、本編【MM2H体験】の関連記事です。馬国の「おすすめ情報」まとめ記事はこちらです。
馬国全土に800店舗以上を展開している24時間営業のKK mart が、誤って回教徒の神格をプリントした「靴下」を販売して大問題となっています。
去る3月13日にSNSを中心にマレーシアのネット上に流れたのは、白地に黒の意匠をプリントした、何処にでも売っているような靴下でしたが、
問題は黒のプリント意匠の中央にはっきりと判読できる Allah の英文字です。
日本では、殆ど注目されないであろうこの炎上問題は、今月後半のマレーシア全国紙の1週間の紙面を席巻するほどの勢いです。
どういうことなのか、関係する記事をまとめました。
私たち外国人にとっては、「知っておくべき」内容です。同じような失敗は絶対に避けなければなりません。
KK mart の委託商品にイスラム教の神格文字
最初に目にしたオンライン報道は、白地に黒のプリントのある靴下に強く反応した、マレーシア国王イブラヒム閣下の厳しいコメントです。
他でもない、馬国の国王が「大きな問題であり、厳しい処分をすべし」と発言したことで、全ての報道機関から政府機関、政治団体、消費者団体を巻き込む騒動に発展しました。
靴下を販売(してしまった)KK mart は飛び上がって謝罪文を掲載し、去る16日にはKK mart の創始者で会長の Datuk Seri Dr K.K. Chai 氏が涙目で全面的に非を認めて謝罪、
「コンサインメント・プロダクツ(委託販売)のひとつだが、チェックが甘かった。二度とこのような不祥事は起こさない。」と弁明
同氏によれば、(イスラム教徒ではない)「私自信も、これは許せません。」という事態であり、創業から23年営業してきて、このような不祥事は一度も起こしていないと弁明。
SNSでこの件が出回った当日に KK mart からのSNSで謝罪文を掲載したそうです。
KK mart は、単なる謝罪会見で問題を済ますのではなく、自ら本件を悪質な刑事事件として Police Report(被害届?)をKLの Sungai Besi 警察署に提出したと発表。
これと同時に、同社からは馬国の総務省、国内貿易および生活費省、そして首相府の各担当大臣に「釈明文」を提出したとのことです。
超えてはいけない線を超えた
人の足に付ける靴下に、回教の神体そのものを意味する「アラー」の文字をプリントするというのは、たとえそれが英文字であっても、ムスリムの宗教文化においては、重大な不敬罪になります。
筆者はムスリムではありませんが、ムスリムの友人や知人を何人も持ち、馬国に長く住んで彼らの生活の中にあるイスラムに触れてきているので、かれらの神格に対する感覚はおぼろげながら理解できます。
装飾品にも持ち物にもプリントできない神の文字を、こともあろうに足で踏みつけることもある「靴下」にプリントするというのは「もってのほか」の愚行だそうです。
そういう意味では、ここでこの件を記事にすること自体も、相当丁寧に書かないと、外国人であっても「不敬罪」に問われる可能性がある、極めてセンシティブな問題。
本日(22日)の New Straits Times の報道で、マラッカ州の首席大臣(Melaka Chief Minister, Datuk Seri Ab Rauf Yusoh氏) が発言しています。
“Everyone knows that the word Allah is held in high esteem among Muslims, so when it is placed on socks worn on the feet, not only Muslims in Melaka but throughout the country will feel offended and hurt.
ムスリムは Allah という言葉に、大変な敬意と畏敬を払っています。それが、人の足を覆う「靴下」に書き込まれているとなると、マラッカだけではないマレーシア全土のムスリムは侮蔑されたと感じるし、痛みも感じるのです。
“When the word Allah is not placed in the right place, it does hurt the feelings of Muslims because this religious matter is very sensitive,” he said.
Allah という言葉があるべき位置に無いということになると、それだけでムスリムの心情が傷つくのです。
Melaka Chief Minister, Datuk Seri Ab Rauf Yusoh from NSR 22-March-2024
このことは、イスラムを国教とするマレーシアに旅行したり、長期滞在する我々日本人も、充分理解して行動しなければなりません。
そうですね。難しいことではないので、しっかり覚えておきます。
イスラム系の政治団体から厳しい要求
KK mart は、この件が炎上した直後に全国800店舗をチェックし、問題が発覚したBandar Sunway の店を含む3店舗で問題の靴下を確認、幸いなことに「誰も購入していない」と発表しています。
しかし、SNS上では、既に KK mart をボイコットすべしとの声も上がっており、国王が厳しい追及を指示したりで、KK mart は窮地に追い込まれてしまいました。
KK mart はnon-halal も扱う華人系の事業ですが、華人で構成する政治団体のMCAも、今回は学ぶべき教訓として、失敗を繰り返さぬよう注意喚起しています。
イスラム系の政治団体Umnoの青年団長からは、本件の謝罪を記載したバナーを全国の KK mart の店舗で表示すべしと厳しく追及しており、その作業は2日以内に終わらせるべきだと手厳しい声明。
“We want investigations into the incident to be conducted under Section 298(A) of the Penal Code (for causing disharmony, disunity, or feelings of enmity, hatred or illwill, or prejudicing, the maintenance of harmony or unity, on grounds of religion). We should not let the matter slip away just because someone cried (when apologising over the incident).
我々(Umno Youth)は、この事案が刑法298条A(宗教的不敬罪)に基づいて調査されることを要求する。謝罪会見で誰かが涙したからといって許せる話ではない。
“We want to call on all Malaysians to teach them a lesson,” he said, adding that the incident was unacceptable and that it had crossed the line.
青年団長は、やって良いことと悪いことがある、この件は度を越している。(不敬罪を犯した)当事者が思い知るまで、マレーシア国民全員が追及することを要求する。
Dr Muhammad Akmal Saleh, Umno Youth
行き過ぎた追及を抑制する動きも
厳しい追及の声やボイコットの声が上がるなか、政府筋のコメントには「これ以上責めることはすべきでない」とする声もあります。
17日には、元法務大臣のDatuk Zaid Ibrahim氏は、Umnoの青年団の発言をたしなめるコメントで、「KK martが意図的にやったとは思えない。KK mart の仕事は地域の需要にこたえている。ボイコットしたら誰が変わりに商品を供給するのか?」「青年団はよく考えて調査すべきだろう」
MCA(マレーシア華人党)の元副総裁Datuk Seri Ti Lian Ker氏は、Umno Youth 代表の発言を問題視して、
個人的な感情論で Umno や Barisan Nasional といった大きな組織の内部分裂を誘発しかねない、と批判しています。
SNS上では、武術の Silatを訓練する団体が今回の靴下の関連業者を「監視する」ようなメッセージを出しており、Umno青年団の Akmal氏がこれを奨励しているが、これは、実際に手を出さなくても、恫喝や脅迫といった意味で犯罪行為と見なされる危険があるという意見です。
このMCAからのコメントには、当然ムスリムの政治家から反駁の声が上がっています。こういった状態は出来るだけ早く沈静化していただかないと、政党間の昔からの対立関係がまた表面化してしまいかねません。
商品を流通した会社の苦境
Xin Jian Chang Sdn Bhd(以下 XJC)は KK mart への商品を卸す Vendor のひとつです。既にかれらが扱う商品から問題の靴下が出たことが判明しています。
ジョホール州の Batu Pahat にあるこの業者には16日から17日にかけて警察の捜査令状による査察が行われており、靴下の供給元が中国の会社であることが判明しているそうです。
問題はこのXJC社の情報。特にオーナーの名前や住所がSNS上でリークされており、このオーナーには脅迫めいたメッセージが届いているということで、
意図的に問題を起こしたわけではないこのXJC社も、マレーシア全土で炎上している靴下問題の被害者です。XJC社は、問題の靴下の供給元である、中国のサプライヤーの過失を追求する法的措置の検討も開始しました。
既に納品された18,800足の中に5足に問題プリントがあった事実も突き止めています。
大きなロットにごく少数の「いたずら」的な商品が混入していたとすれば、この「いたずら」をした人物や団体が、KK martや XJC の損害を弁済することになるかもしれません。
それどころか、単なるビジネス上の利害を超えた「違法行為の追及」に発展する可能性もあります。誰かが出来心で「いたずら」したとしたら、とんでもない代償を払わされることになるでしょうね。
総務省が法的措置を示唆
18日のマレーシア通常国会では、総務省副大臣のDatuk Seri Dr Shamsul Anuar Nasarah氏は、靴下に関する不祥事について調査を開始していると説明。
調査対象は、コンビニエンスストアの運営元と、商品を供給したベンダーであり、本件は国民生活に大規模な不安と動揺を引き起こした罪に問われる可能性があるとしていて、
もし有罪となると、関係者は2万RM(60万円)以下の罰金、3年以下の懲役、これらの何れか、または両方が課せられるとしています。
最後に、3月19日のマレーシア副首相 Datuk Seri Dr Ahmad Zahid Hamidi 氏の発言を紹介します。
今回の靴下に関するセンシティブな問題は、我が国が重要視する3つのR(the 3Rs = religion, royal, race )に関わる問題であり、コンビニエンスストアが誤ったからそれで良いというような軽々しく看過すべき問題ではない。
単なる宗教的な話ではなく、我々が果たすべき重要な責務の話です。国王のイブラヒム閣下よりも、宗教と民族と王家の伝統を軽々しく扱わないこと、国としての調和を保つことの重要性を再認識すべしとのお言葉をいただいている。」
NST March 19, 2024
この問題は、各新聞社の紙面を飛び交っています。まだ、この先、憂慮すべき事象があちらこちらに出て来る可能性があります。
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