【馬国体験】アリババ戦争

馬国

馬国の建設業界で、「アリババ」と言えば、それは「窃盗」「盗む人」「盗人集団」を意味します。

いや、今はそういう隠語はないのであれば、1996年から2000年までの工事現場では、誰もが使っていた「盗み」の代名詞でした。

筆者が初めて馬国に足を踏み入れたのは、今から40年以上前、まだクアラルンプールのほとんどの道路が舗装されていなかった時代です。

当時はインターネットが普及していなかった時代。筆者は馬国政府宛の肥料プラント設備の見積書を持参してクアラルンプールを訪ねると、迎えにきていた大手商社の支店長に案内されて、とあるレストランで一服していました。

筆者は20歳代前半で喫煙家だった(今は全くですが)ため、日本から持参したセブンスターのパッケージと、マッチを重ねてテーブルの上に置いた瞬間、クアラルンプール在住の件の支店長から、初対面の叱咤激励をうけます

「君、この国ではね、タバコを食堂のテーブルに置くというのは、”誰でも吸っていいよ”という意味なんだ。嘘だと思うならそのまま見ててみなさい。」

ほどなくして近くにいた見知らぬマレー人が近寄ってきて私のタバコから一本取るや否や、ずうずうしく筆者のライターで火をつけていました。

読 者
読 者

40年以上前の東南アジアなら、「ありそう」な話ですね。 今はそうじゃないですよね。 

筆 者
筆 者

もちろん、こんな話は今はだれも知らないし、話題にもしないです。しかし、28年ぐらい前、筆者が馬国の建設現場で働いていた時点では、「東南アジア」が「盗難・・・」と思える体験をしていたものです。今日はその話をしましょう。

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日常的な作業員による「万引き」?

「万引き」というと、英語の shoplifting を連想させる、いわゆるスーパーマーケット等での「盗み」です。

建設現場には、片手で簡単に持ち運べて比較的高価な資材や消耗品が、いたるところに保管されたり、工事のために、一時的に仮置きされている。

そして、作業員の服装は、やたらとポケットの多い作業服であり、さらには工具入れなどの装備があるから、手のひらに収まる大きさのものは簡単に懐に納まってしまう。

倉庫に入れば、新品の金物や資材が大量に保管されていて、関係各社の作業員は身分証の提示と、取り出す資材の引取り書類を提示すれば簡単に中に入れます。

目的の資材の取り出しと同時に、目につく「売れそうな」品物があれば、それを片手で取り上げてポケットに入れても誰にもわからないのです。

28年前ですから、当時はまだ屋内に多数の監視カメラを設置してはおらず、先進的な盗難監視装置を設置するような予算もありません。

最も狙われやすいのは、ステンレスや銅(カッパー)、そして銅合金のブラスやブロンズを素材とする小さめの配管資材でした。

こういった輝きのあるパーツは、すぐに持っていかれました。 photo from wikipedia “fitting”

銅合金は、見た目が綺麗ですから、家に持って帰って飾ってみたり、灰皿がわりにされていたようです。

設備内の電線やスチームの配線・配管に使う銅製のチューブも、アリババ作業員に人気の品物。

組織的に持ち出された「アルミ被膜」

石化設備を縦横に走る配管設備は、ほとんどの場合、内部を高温の流体が走ることになるため、人が鋼管に触れて火傷しないような防護措置がなされます。

建設現場で言う「保温」という措置です。(炊飯器は魔法瓶の保温とは、意味が異なります)

この交換用の保温とは、石化設備に張り巡らした鋼管の周りにロックウール(石綿)などの保温素材を巻いて、その上に厚さ1ミリ以下の薄いアルミの板を巻いて、保温状態を保護します。

このアルミ被膜は、しっかりした純度のものが使われるので、錆びませんし、見た目にはきれいに輝いています。素材だけで取引する価値があるので、この材料は、工事会社を雇う側の日本企業が調達して、工事会社が素材を使って保温作業を進めるというアレンジになっています。

このアルミ素材は私たちが一般的に目にしています。町中のショッピングモールの天井近くを走っている鋼管が銀色に光っているのは、鋼管そのものではなく、それらに巻いてある保温材とその表面のアルミ被膜なのです。

どこにでもあるショッピングもーるの天井を見るとアルミ被膜で覆われた配管が銀色に輝いています。 

このアルミ被膜は、保温作業を専門にしている建設業者に下請けして現場作業をさせるのですが、中には悪質な業者が居て、アルミ被膜を工作して鋼管類のまわりをきれいに仕上げるかたわら、余ったアルミ被膜を集めては建設現場の外に持ち出して売りさばくということをします。本来は雇い主に余剰材量を返さなければなりません。

筆者が働いた現場では、ある工事会社が、余ったアルミ被膜を大量に集めて、不要になったコンテナいっぱいに集めて、建設現場の外にトラックで輸送しようとしていました。

保温作業を担当していたのは、1社だけでしたから、その業者のリーダーを呼んで、こういう窃盗の事実を追求すると

「固いこと言わないでください。これは、いわゆる チャリ・マカン ですよ。

と言います。「チャリ・マカン」は、日本語にすれば、小遣い稼ぎ、ないしは「落とし物の5円・10円をを拾い集めたもの」といった意味合いです。

筆 者
筆 者

25年以上前の話なので、今はこういう言葉は使ってないかもしれませんね。

アルミ被膜の「切れ端」は、残材であって、スクラップですから、管理監督する企業からみれば、ゴミだという認識であり、ゴミを集めて処分しているのだから、逆に助かっていると思って良いはずだという発想です。

1ミリ以内の厚みのアルミ被膜は手で折りたためるので、端材を手でたたんで、持ち帰って戸外のスクラップ業者に持っていけばたばこ銭ぐらいにはなります。

これを「チャリ・マカン」というのだそうです。

現場組織外の「窃盗団」の所業

現場の内部の窃盗は、困るといっても、被害が限られた範囲で収まります。

大きな問題になるのは、既に設備の一部になっているものの一部を取り外して持ち去るような行為です。

全ての機器や資材は、カンタンに手で外して持ち出せないような構造にはなっています。ボルト締めで繋ぎ合わせてあるパーツ類も、素人が簡単に外し手持ち出せるものではありませんし、高温だったり、重かったりして、窃盗の対象としては全く不向きです。

それでも、例外的に「盗みやすい」設備もありました。

どの国の町中にも見られる「消火栓」です。

この消火栓には、有事の場合に、消防士が水を得るための蛇口ですから、蛇口となるバルブがついていて、錆びにくい銅合金でできたキャップがついています。

このキャップは、通常は鎖(くさり)で消火栓に繋げてありますが、この鎖は、市販の工具で切断できるので、キャップを持ち去ることができます。

持ち去った銅合金のキャップは、やはりスクラップ業者に売りさばくことができます。

筆者が経験した現場では、数人の窃盗団が完成にちかずいている製油所のあらゆる場所に設置されている消火栓のキャップを軒並み外して盗んでいきました。

キャップが外れていると、客先の監視係が、「ダメ出し」をしてきて、設備の引き渡しが出来なくなります。10数個の消火栓のキャップが無いために、その区画の引き渡しができません。数百億円規模の設備の完成が消火栓のキャップのために止まってしまうのです。

盗まれる度に、現場近くの町工場に依頼して銅合金のキャップを作ってもらい、それを消火栓に付けるという作業を行います。

すると、また窃盗団が夜中に敷地内に侵入してキャップを盗むという「いたちごっこ」になりました。

この時は、しかたなく、現地の警察当局に捜査を依頼して、犯人グループを逮捕してもらうまでの刑事事件に発展しています。

素材サイトで見つけた典型的な消火栓の写真。手前のバルブの出口はキャップがついたままです。塗装をはがすと銅合金などの金属です。

盗まれない資材管理のアイデア

日常的に細かな資材が紛失する資材倉庫の盗難対策は大きな問題となりつつありました。厳しく管理できないと、「うまく持ち出せた」という話が広がって、さらに盗難行為が増えるという悪循環になります。

頭を悩ませていた際に、どこからともなく名案が舞い込んできました。そのアイデアは、近隣のオフィスで配管資材を供給している業者の支店長のアイデアでした。

「そんなに困っているなら警官を雇いなさい」

当初は、「警官を雇う」という考え方が理解できませんでした。警官は国の組織の一員ですから、われわれ一般企業が雇うというのは筋ちがいです。

しかし、支店長のアドバイスは、そうではありませんでした。

「定年退職で警察署から退官した人間を雇用すると良い」

ということだったのです。人財はすぐに見つかりましたし、その人物に払う給与も、普段から現場のマレー人所員に払っていた給与レベルで充分でした。

かくして、その工事現場の資材保管場所は、現地では顔が売れていた「元警官」のマレー人男性が監視することになり、その日から盗難被害は激減したのです。

退役した警官からは、「イミテーションでもいいから、鉄砲を持たせた監視人を座らせると良い。実際に発砲するようなことには絶対ならない。私が責任持ちます」という提案をもらいました。

馬国でも、町中の宝石店で見かける猟銃をもった監視人のことです。

これも、実施して、効果は絶大でした。(最初からそうするべきだったようです)

あり得ない規模の紛失劇

筆者が常駐していた建設プロジェクトが終盤にさしかかったころ、大きくて重い資材を置いている敷地で盗難問題が発生しました。

当初の報告を聞いて、関係者が耳を疑いました。

64インチのフランジが盗まれたというのです。

フランジというのは、図のように鋼管と鋼管を繋ぐ鉄製の「継ぎ手」です。

日本版wikipedia 「フランジ」より

64インチは1.6メートルです。つまり人の背丈ほどの大きさのフランジが盗まれたと言うのです。重量は300 Kgです。

クレーンを使わなければ持ち上がらない資材は、通常は野外に保管されます。作業員が手にとって運べるものではないですし、場所を取るものばかりですから、盗難のリスクは極端に低いのです。

英語版 wikipedia “theft” に掲載された風変りな写真。比較的小さな建設機械の盗難防止のために、大きめのクレーンでロックしている。

ところが、この時は、クレーンやトラックを使わないと移動できないものが、現場の仮置きヤードから忽然と消えたのです。それも4つ5つという数でした。

どんな方法で持ち去ったのかはともかく、300Kgクラスの大きな鉄の輪っかが持っていかれたのですから、どこかで見つかるはずです。

既に、何度も連絡を取って知り合いになっていた地元の警察にも問い合わせて、関係者で手分けして近くのスクラップ屋さんを調べて回りました。

すると、現場から車で1時間ほどのスクラップ屋の土地に、盗まれたフランジがゴロゴロと置いてあるのが発見されました。

警察も入って、犯人捜査をするうちに、驚くべき事実が報告されてきました。

犯人は、地元のグループで、重量物を運ぶ大型のトラックと、クレーンを扱える作業員数人の組織的犯行だったそうです。

かれらは、夜中にトラックとクレーンを運転して、どうどうと現場敷地内に侵入。そして、重量物の仮置きヤードに到達すると、淡々と重いフランジをクレーンでトラックに入れて持ち去ったのです。

真夜中なので、警備員が一人で通用門を見ていましたが、トラックとクレーンが来て、緊急の資材搬出だと言うので、まさか盗難とは思わず、通したのだそうです。

あきれた事件でした。

参考  建設現場の保守管理責任

建設関係の経験者なら、どなたでもご存知であり、企業秘密でもなんでもない常識的な事実なので、ご紹介します。

石化設備の建設のために、国内外から持ち込まれて資機材は、貿易実務や取引実務が終わった後は、その設備のオーナーである客先の「所有物」になります。

この記事でお話しした資材も、全て同じです。現場に保管されているのは建設担当の企業の持ち物ではなく、出来上がった設備を運転する顧客に所有権があります。

ですから、資機材が「盗まれた」場合に、法的にその被害に遭っているのは、建設担当の企業ではなく、顧客です。

ところが、資機材が盗まれないように必死に管理したり、盗まれたものを取り返したり、買い直したりするのは、建設担当の企業の責任です。

これは、プラント建設の契約では一般的な「保守管理責任」( Care and Custody )です。つまり、石油精製所ならその設備が完成して石化製品を作り始めて初めて引き渡すことができますから、その時点までに現場に有る資機材は全て建設担当の企業(コントラクター)が管理することが契約条件なのです。

引き渡す設備が、もし使い物にならない場合、客先は全ての資機材の保守管理を行う立場を取ることはしません。

あくまでも完成した設備が動いて生産活動ができるようになって、始めて関連資機材の所有権の価値が生まれるのです。ですから、貿易管理上の取り決めで、所有権が顧客側に移っていても、大型プロジェクトの設備の引き渡しまでは、資機材管理の管理責任は建設担当のコントラクターの責任範囲のままなのです。

最終的に設備全体が引き渡された場合、建設担当のコントラクターは、残った資機材と端材について顧客側に「引き取り」を要請しますが、顧客が引き取らない場合は、コントラクターが処分することになります。処分する場合でも、あれこれと法的な手続きがあるため、簡単に町のスクラップ業者に売り渡すことは出来ません。

未使用の資機材や余剰材というのは、やっかいなものなのです。

最後まで参照いただき、ありがとうございます。

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