【馬国体験】大規模プロジェクト 多国籍な人間模様

馬国

馬国(マレーシア)で行われる大規模な建設工事の最前線は、さまざまな人間が複雑怪奇に混ざり合った集合体でした。

筆者は、サウジアラビアを始め、中東の産油国での現場経験が多かったのですが、馬国の場合と中東の砂漠地帯とでは環境が全く違いました。

砂漠地帯の場合は、周りに何も無く、誰もいないので、比較的システマチックな組織を計画して、限られた人種と職種の人間を動員することで運営しますから、組織の中身は比較的シンプルで統制しやすかったと言えます。

一方、馬国の場合は、国内に便利なサービスが沢山有り、人種も宗教もさまざまです。しかも、マレー語以外にも、英語が半分公用語のように普及していますし、広東語のような華人の言語も普及しています。外国人が気軽に渡航してきて滞在費用も比較的安いので、世界中から専門家が集まって来るのです。

あらゆる技術とスキルを必要とするメガ・スケールの建設工事が馬国で相次いで実行されてきた。 image photo by envato elements (all rights reserved)

そういった環境で、総工費(建設工事全体を完成させるために必要なお金)が数千億円規模の大規模プロジェクトの組織を運営すると、その組織は、自由主義世界のあらゆる人間模様が数千人規模の集合体に圧縮されたかのような状態になります。

筆 者
筆 者

今回は、筆者が1996年から1999年の4年間に体験した、石油精製の大型建設工事案件の現場経験から、そこで見た人間模様を紹介します。

今回の説明も、全体的に「過去形」なのは、筆者の体験が、今この原稿を書いている2024年から数えて25〜28年前の出来事だからです。必ずしもマレーシアの「今」ではございません。

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トップに君臨するマレーシア人と欧米人

石化設備やLNGなど、馬国の国家戦略が関係するような大規模プロジェクトの場合、そのプロジェクトや建設現場を管理するヒエラルキーの最も高い位置にいるのは、ほぼ20名程度のマレーシア人と欧米人の混成チームでした。

筆者の体験は「石化プロジェクト」であり、建設するのは「製油所」ですから、当然、馬国の石化事業の主体であるペトロナス社の人材が含まれます。

一方、石化技術というのは、もとより欧米の技術であり、世界の石化技術を開発してまとめてきた欧米の人材が、ペトロナスの社員と同席する形で、「顧客チーム」を作るのです。

この20名前後の小集団は、完成した設備を「操業」(オペレート)して、石化製品を出荷する運営会社の前進になる人たちですから、それなりの知識と権限を持ちながら、完成する大型製油所の数十年先を見越した管理監督の責務を負います。

政府の肝入りの大型案件の顧客代表に含まれるシニア・エンジニアは、建設現場を歴任してきた方も含まれる。大先輩である。 image photo by envato lements.

当然ですすが、ここに組みするのは、経験豊かなシニアクラスの欧米のエンジニアや商業・財務・法務のスペシャリストであり、ペトロナスの人間は将来の幹部となる中堅と、すでに部長以上の役職にある幹部職です。

この人たちは、馬国の現地の国民を別として、全員馬国の最高級のバンガローやコンドミニアムを宿として、富裕層に特有の共同体を運用します。食事も一流レストランであり、余暇もゴルフを中心に高価なレジャー体験を享受できて、休暇も年に1度程度、まるまる1ヶ月休んでいました。

工事の遂行責任は日本企業の幹部

組織としてトップに君臨する20名に相対する、建設工事の主体となる企業の幹部は、12名前後の日本企業の幹部です。

日本企業がプロジェクトの設計・施工を請け負う場合、この12名前後の幹部集団は(ごく稀な例を除いて)全員日本人の企業の社員。

この組織の中核をなすのが、いわゆる「プロジェクト・マネージャー(略してPM)」や「プロジェクト・ダイレクター(略しsてPD)」といった職種で、やはり幹部としてのまとまった集団生活を形成します。宿泊場所は企業活動で許される範囲の経済性のある場所であったり、食事も自炊をしたり、街中の安めの定食屋で済ませていました。

昼食は、現場にいる他の日本人の監督職や専門職と同じように、食堂で食べる「賄い飯」です。

しかし、このレベルでも、衣食住は一般の馬国民よりは十分裕福な範疇に入りますし、現場勤務ということで、通常の給与に「現場日当」の手当が付きますから、

定期的に、仲間で集まって近隣の有名レストランで会食を持ったり、近隣の一般のゴルフ場で余暇を楽しめます。

筆 者
筆 者

当時、エンジニアリング会社は、よく「ブラック企業」に近いと言われました。 

でも、「下積み」の苦しい時期を耐えぬけば、その後、派遣される建設現場は、日本国内で事務机に貼り付いて、毎日同じ作業を反復するような仕事より、ダイナミックで楽しい職場でした。

今現在のエンジ企業は、どちらも「働きかかた改革」社員に優しい環境になっていますね。

日本企業のプロジェクト幹部の20名の役割は、前述のPMやPDといったプロジェクト全体をまとめる役職以外に、設備の設計をまとめるエンジニアリング・マネージャー(EM)であったり、工事の全体管理を担当するコンストラクション・マネージャー(CM)、機器や資材、重量物の輸送や移動を管理するロジスティックス・マネージャー(LGM)、現場で保管されて徐々に設備の一部になる機器と資材を管理するマテリアル・マネージャー(MM)、そして事務方の長であるビジネス・マネージャー(BM)らが中核を成します。

他にも、昨日紹介した「安全管理」の総監督、製油所の設備の試運転の総監督が、このクラスのマネジメント集団に含まれます。PMやPDの補佐という意味で、熟練のプロジェクト・エンジニア(PE)が Deputy (副官)的な立場で参加する場合も多いです。

建設工事の成否を決める現場監督と専門技術者

少なくとも「数千億円」規模の大規模プロジェクトの建設現場の組織において、専門的な知見をリソースとして、実際に工事活動を取りし切っているのは、

前述の顧客チームや、企業のマネージャークラスの集団の直接の「部下」にあたる集団です。この集団は、最低でも100人の多種多様な専門職で構成されています。この集団の構成は、少し複雑です

  • 企業の社員として「現場監督」を行える中堅クラスの社員(エンジニア)
  • 日本や海外から短期契約で参加して来ている熟練の技術系の現場監督
  • エリア毎に区分された工事を請け負う工事下請け会社のプロジェクト・マネージャー
  • 重要な機械設備のメーカーから派遣されて来ているメーカーのエンジニア
  • 以上の4つのグループの人員をまとめる主任級の現場監督(日本企業の社員)

このレベルは、若くても30代後半から、上は60歳代まで非常に幅広い年齢層で構成されていて、人種も日本・マレーシア以外に欧米各国、アラブ諸国、中国、韓国、シンガポーリうといった多種多様な国籍が集まっていました。

このレベルの集団が、1箇所に集まって話し合うような機会は、ほとんどありません。全員が、マネジメントレベルのリーダーの指導下で、与えられた任務を完了させる「専門家」達です。この層の人材は一般的に SV、つまり スーパーバイザーです。

日本企業の若手・見習い社員は、現場組織の中では、底辺以下の存在。しかし、将来の幹部候補でもある。

ここに集められるエンジニアやスペシャリストは、全員、過去の就業履歴や資格証明などのチェックを経て、「本物」として雇われている人材ですから、時として、この層の専門家が、上層にいる日本人マネジメントや、顧客の管理チームに「意見する」なり、「苦言を呈する」といった場面もありました。

下請け工事を受け持つ現地の工事会社は4〜5社。各社のプロジェクト・マネージャーは、いずれも肝のすわったリーダー。

特に、50歳代から上の「職人気質」のエンジニアや専門家は、仕事の手順として、合意できない内容が要求されると、厳しい口調で反駁してきたり、拒否して来ました。

前回、少しだけ紹介した通り、建設現場は常に死亡事故や、障害を負うような事態に巻き込まれるリスクがあります。経験豊かなエンジニアやスペシャリストは、その面で、非常に目が効くので、マネジメント集団は、この熟練層には真剣に対応するものです。

このレベルの人々の滞在場所や食生活は、あまりにも多種多様ですから、まとまった説明はできません。

有名なメーカーから派遣されてくる専門のSVは、馬国内の複煤の現場を掛け持ちしていたりする。彼らもまた、高級取りである。

ある人はすでに馬国に長期間住んでいて、家族もいます、あるものは数ヶ月の予定ホテル暮らしですし、あるものは馬国の会社の社員として雇われています。

建設プロジェクトの主体となる日本企業の社員は、この集団の中で、中堅のエンジニアとして切磋琢磨されながら成長していました。ただし、衣食住は、企業のルールに従って、決められた宿舎と、決められた選択肢の中で生活していたのです。

現地の熟練エンジニアの中には、優秀な工事経験者が含まれている。甘く見ると揖斐しく追求されてしまう。 image photo by envato elements (all rights reserved)

作業員とフォアマン

ここで紹介しているような、総工費が数千億円の建設現場には、少なくとも3000人、ピーク時には1万人をこえる作業員が建設工事を行います。

職種は、あらゆる工事作業です。

馬国の労働者のリソースは、現地のマレー人、インド人、華人、そして海外から集まって来ている、インドネシア人、ミャンマー人、タイ人、あるいはパレスチナ人であったりします。

下請け工事会社は、よほど特殊な場合を除き、すべて馬国の現地で登記されて、馬国民が管理している工事会社を採用します。

彼ら馬国の工事会社が、どのような雇用方法で、どういった労働者を集めているかは、契約的に全て下請け会社の責任範囲です。

違法に入国している労働者がいる場合、馬国の移民局は積極的に摘発に入りますが、これに対処するのは下請け会社であり、

上層にいる日本企業と顧客層は、「是々非々」で国家当局と話し合いますが、基本的には、全て下請け会社が「合法的に人集めをしている」という大前提がありますし、そのように下請け契約に記載してあります。

作業員がマレー人なのか、インドネシア人なのか、あるいはミャンマーなのか、日本企業のメンバーは区別できはしない。 photo by envato lements

フォアマンは日本語では「棒芯(ぼうしん)」という単語が当てはまる仕事で、労働者集団とほぼ同様の衣食住の環境にあり、同じ言語を使い、労働者層を統率して結果を出すためのリーダーです。

棒芯 :「棒の芯」であり、技能工集団の中心部であることからこう呼ばれ、一般に施工班(職人)の親方の事である。

Wikipedia日本語版 「棒芯」
マレーシアのフォアマンには、このイメージ写真のような優秀な女性の作業員も含まれている。 photo by envato lements (all rights resesrved)

トラブルの発生場所

これだけ多種多様な集団や人間が集まりますから、当然ながら、トラブルが後をたちませんでした。

最も上層の顧客チームと日本企業のチームとは、プロジェクト全体の運営や、問題解決について、会議をするたびに厳しく衝突して、時には大声で相手を攻撃することもしますが、全員が大人の対応をとるので、仕事場の外では非常に友好的な関係がありました。

筆者も、企業のマネジメント集団の若手のひとりとして、客先チームのマレー人幹部や欧米のエンジニアを頻繁に食事にさそって人的交流を行って来ました。

日本の義理人情と似たところがあり、普段から食事や飲み会で社交的に付き合っているマレー人幹部や欧米のアドバイザーも、筆者がトラブルに巻き込まれた局面では、積極的に助けてくれたものです。

普段のお付き合いは大事です。

口論や仲違いが起きるのは、100人規模の中間層の専門集団です。ここでは、あまりオフィシャルでない口頭での衝突、そして稀に殴り合いの喧嘩といった事象が起きます。

反社会的な言動や行動があれば、単純に排除されます。稀に警察が入ることも有りますが、企業側は刑事事件になるような事象は極端に嫌います。

暴力沙汰や、それに近い衝突が起きた場合、半目する当事者全員か、その一部の契約を解除してしまいます。

下請け工事会社の作業員の範囲で起きることは、日本企業の人員には聞こえて来ません。

馬国の工事会社幹部も、そういった問題は、電光石火で解決していましたし、工事をまとめる客先や日本企業に解決を要請してくることは全くありませんでした。

ただし、問題は「盗難」です。

馬国の現場では、手で持ち歩ける資材の盗難が後を断ちませんでした。

これをやるのは、主にフォアマン以下の労働者層です。この盗難だけは、下請け会社の幹部も「見ていないものは知らない、取り締まれない」の一点張りであり、とにかく倉庫の保管と監督を厳しくすることだけが解決策でした。

間も無く30年が経過する「過去の」プロジェクト現場です。もう時効ですから、盗難については、今後の経験談で詳しく事例紹介したいと思います。

馬国的な「3民族複合社会」の影響

馬国で長く仕事をしている方は、すでにご存知とは思いますが、

筆者が従事した大規模な建設現場でも、マレー人、華人、インド人の馬国の3つの人種の集団は、互いに絶妙なバランスを保ちならがら、民族系の衝突を避けていました。

ある程度時間が経ってからわかって来たことは、彼らが民族間の考えや生き方の違いで揉めるということは、馬国人全員にとって何の得もないことがよくわかっていて、

どちらかというと、戦う相手は、彼らに報酬を出す側の日本企業だったということです。

image photo by O-DAN

馬国の法律や既得権を盾に抗議してくるのはマレー人、非常に賢く日本人集団の矛盾をついて理詰めで攻めてくる華人、そして、普段はおとなしいが、突然、集団でストライキまがいの陳情を起こすインド人。

それぞれの強みを最大限有効活用して、日本企業が不公平に利益を上げるような事態を阻止して来ていました。

ご存知のとおり、マレー系馬国人が日本企業に与える最大の圧力は、移民局による「違法就労」の疑いや、「法人税と所得税」の分野でした。

下請け会社の華人マネジメントは、日本や欧米人も顔負けの商業的なアイデアで、合法的ながら、狡猾な取引交渉して来ました。詳しくは別の記事で紹介します。

筆 者
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それでも、筆者はマレーシアを嫌いにはなれません。最後の最後には、「やはり憎めない、何かがある」のがこの国の魅力なんだろうといつも思うのです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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