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今回は、葉亞來が Syed Mashhor への復讐とKLの奪還を誓った1873年の最終戦の様子をご紹介します。
これまでの経緯（あらすじ）
KLの錫鉱区が大発展すると見抜いていた芙蓉地区（Sungei Ujong）の華人リーダーの葉亞來は、1860年にクラン川とゴンバック川が合流する地域（現在のKLの発祥地）に移住すると、当時の華人行政官（Kapitan＝キャプテン）の劉壬光を支援し、たちまち大成功を収め、この場所に落ち着く。
1869年、劉壬光が病に倒れると、数奇な運命で葉亞來がKLのKapitanを継承するが、旧知の恵州客家、張昌、と対立関係となり、やがて慶応州客家の集団の宿敵となってしまう。
ちょうどその頃、第３代スルタンの孫のRaja Mahdi が起こした反乱と、Mahadi を敵対する第４代スルタン（1857–1898）下の総督 Tungku Kuding の政治的な紛争がセランゴール内部のあらゆる領主を巻き込み始める。
葉亞來が管理するKL（Ampang を中心とする錫鉱区）は、セランゴールの錫の採掘を取り巻く利権の象徴となり、Raja Mahadi 側の先鋒である Syed Masshor と張昌率いる華人集団から総攻撃を受ける宿命となる。
| Sultan 陣営 | 反乱陣営 | |
| 当事者 | Sultan Samad | Raja Mahdi |
| 代理人・参謀 | Tungku Kudin | Syed Mashhor |
| 華人参謀 | 葉亞來・恵州客家 | 張昌・嘉応州客家 |
| 同盟 | Pahan軍 | 州内の北方領主 |
| 寝返り組 | Raja Asal, Sutan Puasa, etc. | |
| 英国の干渉 | 友好的 | 敵対的 |
葉亞來軍は、当初は、華人集団の強みを存分に生かし、KLに入植していた、Sutan Puasa の支援も得て、1870年と1871年の敵軍との大規模な紛争に打ち勝ち、KL地区を守り抜いたのだが
翌1872年になると Syed Mashhor の巧みな策謀により、Raja Asal やSutan Puasaが敵方に寝返り、自衛の組織においてもTungku Kudinの采配による、不慣れな遠征や、外国人傭兵との連携がうまくいかず、
葉亞來軍団は激しい戦闘の末にKLを終われ、クランに敗走する。援軍の Pahang からの軍属はセランゴールに到着したが、時すでに遅く、KL地区は Syed Mashhor とMandailing族に占領されてしまう。
戦況は圧倒的に Syed Mashhor 軍に有利だった
1872年8月に、KLは陥落し、Syed Mashhor はKL地区とKuala Selangorの両方を占領。セランゴールの多くの領主が Raja Mahadi 側に鞍替えしています。
一方、Sultan側の総督Tungku Kudin は、欧州人の士官とインド人軍隊を殺害され、彼の本拠地であるクラン川河口とクラン地区の砦くセランゴールの主要拠点を全て失っていました。
しかも、Kepongに進軍していた助っ人のPahang軍は物資調達がうまくいかず、結局はPahang領のBentongへ撤退してしまいました。
葉亞來軍の立て直し（秘話）
一方、1872年10月下旬までに、葉亞來は不屈の努力と組織力で、1,000人の兵士を集め、内陸部に戻る準備を整えていました。この兵士のうち約700人は前回の敗戦から生き残った兵士であり、残りは中国から新しく到着した新兵でした。
この新兵の中には、竹製の大砲（Bangoo Cannon 砲、BC砲）の扱いに熟練した200人以上の砲兵部隊が含まれていました。
この砲兵部隊は、KL奪還の戦いにおいて大活躍します。
葉亞來と、参謀のひとり Voon Siew は軍の士気を高めるために、兵士たちに高額の報奨金を与える運用を打ち出しました。報奨金の内容は以下の通り；
- 敵の指導者の首を討ち取った場合：報奨金 100ドル
- 敵の一般兵士の首を討ち取った場合：報奨金は 10ドル
- 戦死した兵士の家族への補償金は 300ドル
報奨金制度が発行すると、兵士たちは以前よりも勇敢になったと伝承されています。彼らは、家に残る家族への高額の報奨金を知るとすると、自らの命を顧みずに、勇敢に戦ったそうです。
葉亞來軍を最強に仕上げる上で、Tungku Kudin は２つの賢明な采配をしています。
ひとつは、彼自身の手配で、葉亞來集団とほぼ同数のマレー系軍団を招集したこと。そしてもうひとつ、
それは、これ以降、全体の指揮を「葉亞來」に任せたことです。彼は、領主の利権ではなく、兵士ひとりひとりの努力に報いる戦い方を示したのです。
周到な戦略協議
2,000人規模の葉亞來軍団は、1872年11月までには、KL近くのKepong まで進軍し、Pahang 軍が一時的に撤退したことを知ると、少しもひるむことなく、クアラルンプールに移動。
到着すると、KLは激しい大雨で冠水状態のため、軍団は高台に野営します。そして大雨の影響がなくなるまで、その場を動かず、徹底した組織作りと指揮命令の徹底や、守備範囲の分担を話し合っています。
３ヶ月以上の月日が流れるうち、Bentongに撤退していたPahang軍がふたたびセランゴールに進軍してきたため、葉亞來は、Pahang 軍とも周到な戦略協議を行います。
1973年の３月、葉亞來軍とPahang軍の進軍が本格化します。
この時、葉亞來軍は10から12グループの中隊に区分され、クラン川の西を軸に、北西の地区、そして南西側にも展開することで、KLの北から南西までを包囲しました。
一方、Pahan軍はKLの東から北東を包囲し始めます。この時点で、正規軍はKL南東のPudu地区を除く全方位を包囲したのです。
そして葉亞來たちは、絶対に拙速な動きをせず、相手の動きをじっと観察します。
最後の戦闘
最初に戦闘を開始したのは、Mashhor軍団でした。この軍団の規模は、正規軍と拮抗する 2,000人です。
しかし、３ヶ月の間クランから武器弾薬の調達を続けた葉亞來軍団の戦闘能力は、これまでとは桁違いでした。
葉亞來軍は、Mashhor軍を取り囲む形で、まる２日と２夜の間、砲撃を止めませんでした。そして、新たに導入したBC砲（バンブーキャノン）もフル稼働しています。
Mashhor の軍勢は次々と敗北を喫し、多数の死者を出します。
劣勢の Mashhor軍 は葉亞來軍が居ない北側からの撤退を試みますが、そこには、すでにPahang軍が北に展開して警戒していました。
３日目の真夜中ごろ、Syed Mashhor は自軍の軍勢がわずか700人ほどにまで減少していることに気づきます。今回は Mashhor の敗けです。彼は、なんとか Pudu地区 の峠を抜けて敗走。
徹底した戦略協議と物資の準備を背景に、葉亞來は短期決戦でMashhor軍を撃破したのです。
内戦はさらに6ヶ月間続きました。BC砲の導入はKLの解放を早め、戦争の終結に貢献しました。BC砲はPahang軍にも同行したそうです。（写真や資料が残っていないのは誠に残念）
セランゴール戦争の仕上げの仕事は長期戦に強かったPahang軍によって行われました。KLの北部のセランゴール内部では激しい戦闘が繰り広げられ、Kanching だけでも、敵軍300人以上が殺害されました。
1873年11月8日、セランゴール全体の市民戦争はKuala Selangor の陥落とともに終結しました。Syed Mashhor は現在のPerak州に逃亡。もはやKLに関わることは無くなりました。
張昌もMashhorも完全に敗退しました。
正規軍とPahang軍に対抗する軍事力を失った反乱軍の支配者 Raja Mahdi は1874年にはジョホールからシンガポール方面に亡命し、1882年に没しています。
何が勝利をもたらしたか？（筆者の考え）
葉亞來軍の強みは、なんといっても、最後まで生きて戦った「甲必丹」葉亞來と、重鎮の Fui Fatt や Chung Piang とトップとする一枚岩の華人集団の結束力と戦略頭脳でした。
1872年のKL陥落の悲劇を振り返ると、その間接的な原因は、
- 武器・食料を充分持たな買った遠方の敵陣 への遠征
- 現地の地理に疎いオランダ人司令官とインド人歩兵の採用
- 葉亞來を司令塔にしなかったこと
- 短期決戦でなく、長期戦を許したこと
1873年の戦いでは、Tungku Kudidn も失策を繰り返すことなく、KL奪還を誓った葉亞來に全てを任せますね。 「戦い」について不必要に介入しなかった、Kudin 総督の大人の判断が勝利につながったんですね。
Sutan Puasa とMandailing族
終戦の年、1873年にRaja Asal やSutan Puasa の出身であるMandailing族は、KLを出て別の地域に移住しています。
なにしろ、Syed Mashhor 側に寝返ってKLを奪い取った逆賊ですから、Selangor のスルタンもMandailing族には非常に厳しい態度をとっています。
それでも、KLの最初の入植に尽力していたSutan Puasa は最後まで利権を主張して正規軍に抵抗していました。
しかし、これが受け入れられるはずもなく、彼は1876年に裁かれて有罪判決の下で一時投獄されています。
伝承では、彼は保釈されて以降、KLの北西部のChow Kit 界隈に住んで障害を終えたようです。今でもChow Kit 界隈にインドネシア系の移住民が多いのはこれがルーツになっているのかもしれません。
最後まで参照いただき、ありがとうございます。
次回は、内戦直後のクアラルンプールの復興の史実を追います。記事はこちらです
