マレーシア新潮流シリーズは、馬国メディアが伝える最新情報を調査してセカンド・ホームを計画する皆様、既に在住の皆さまに紹介します。
今回は、日本でもようやく動き始めている「ギグ・ワーク( gig work )」の馬国での実情です。9月20日付けの全国紙 The Star で大きく紹介されました。
日本では Uber Eats でおなじみのデリバリー・サービスですが、馬国では、ご存知のとおり、タクシー業をほぼ一掃した Grab(モバイルで呼ぶ個人タクシー)のような gig work がどんどん普及しています。
新聞で飛び交う単語も、gig work だけでなく、p-hailing, ehailing など微妙に意味の違う新語が飛び交っています。そのあたりをまとめてみました。
モバイルで働く仕事
P-hailing(ピー・ヘイリング)は、配達物(Parcel)の「P」と、配達サービス(delivery)の「hailing」を組み合わせた造語です。
P-hailing worker は、配達サービスの「プラットフォーム」と契約を結んで仕事をする、フリーランスや個人事業主の労働者であることが多いです。
ここでいう「プラットフォーム」とは利用者と配達担当者を仲介するシステムを運用する個人や団体を意味します。ネット予約や、電話予約はこういったプラットフォームが仲介しています。
Gig work (ギグ・ワーク)は、短期・単発の仕事を意味する「gig」と、労働の「work」の造語。
P-hailing worker は、あらゆるオンデマンドサービスを提供する労働者を指しますが、gig worker は、短期・単発の仕事を提供する労働者で、配達サービスに限らず、さまざまな業種が有ります。
P-hailing worker は、配車サービスや配達サービスのプラットフォームと契約を結んで仕事をする、フリーランスや個人事業主の労働者であることが多いですが、
gig worker は、短期・単発の正社員、契約社員、アルバイト、フリーランスなど、さまざまな雇用形態の労働者を含みます。
つまり、P-hailing worker は、配達サービスに特化した呼称であり、雇用形態はフリーランスや個人事業主が多いのに対し、gig worker は、配達サービスを含むあらゆるオンデマンドサービスを提供する労働者を指すわけです。
E-hailing (イー・ヘイリング)という言葉もあります。
E-hailing の場合はスマホのアプリを利用した、言ってみればモバイル系のプラットフォームを使っているサービスで、配達担当者や運転手の利便性をモバイルで解決しているサービスです。
タクシーや専門の配送業者に変る「シェアード・モビリティ」と呼ばれていて、旅客・輸送業に関係する公害、二酸化炭素排出などを削減すると言われています。 日本でも一般的になったUber Eatsや、マレーシアの Grab (個人タクシーのモバイル運用)は E-haililng の典型
馬国労働市場の Gig Work ブーム(全国紙 The Star )
クアラルンプールで働く若者、19歳のアレフ君は「高校を卒業して工場やガソリン・スタンドの就労経験があるが、1日12時間がんばって働くこともできたが、それでも応分の給与が貰えなかった。」
「ガソリン・スタンドではレジの仕事で雇われたが、仕事が始まったら同じ給与でスタンド内のあらゆる雑用をさせられた。」と就業環境に不満を抱いてきた。
そこで、思い立って p-hailing のライダーになってみた。
「すると、働けば働いた分きっちりと給与がもらえた。」という
馬国の北、ペラ州のPerak Motorcycle Delivery Riders Welfare Association(デリバリー・ライダー厚生協会)、のモハマド・アザド氏はペラ州15000人の p-hailing rider のまとめ役。
アザド氏曰く、産業界の給与レベルが低下する中、配送サービスのプラットフォームは高卒で働きに出る労働者が最も好む職種であり、若者に交じって高齢者でさえこの仕事に入ってくる。
「ペラ州の中心にあるイポーでさえ定職についてもまともな給与は出ない」そうで、配送サービスのライダーを選んだ労働者の7割は、副業せず、フルタイムで p-hailing に従事すると言う。
モハマド・アザド氏本人:「兵役を経験した後に良い仕事が見つからず、配送サービスの世界に来ました。協会メンバには60歳の人もいるし、メンバー全体の45%は35歳以上です。」
次はマラッカ州の実情
マラッカの ehailing と p-hailing 従事者は25,000人で、40%から50%がフルタイムの gig worker だ。
Melaka Delivery Riders Association (マラッカ配送ライダー協会)の幹事長 カマルラズマン・アハマド氏(34)はビデオ映像制作の技能証明をもった学卒だが、マラッカ州内で期待する就業環境を見つけられず、配送ライダーになった。
「見つけた仕事は、RM1200かRM1300程度の給与で、道具は全部自分持ちでした。僕は奨学金のローンの返済があったので、これではやっていけず、p-hailing で稼ぐことにしました。」
研究機関の調査報告
Gig woker や P-hailing を調査するUniversiti Utara Malaysia (UMM)は gig work を主な収入源
としている労働者は調査対象者の大勢を占める結果を発表している。
「貴方はGig Work を選んでいるか?」 | 回答率% |
1. Gig Work を選択している | 44% |
2. Gig Work を副業として選択している | 29% |
3. 場合によりGig Work も選択するつもり | 14% |
4. Gig Work は選択しない | 13% |
調査関係者によれば、Gig Workを「正業が見つかるまでの一時しのぎ」としている人の割合はわずか9%だった。
ギグ・ワークの問題点(Wikipediaより)
ギグエコノミーもいくつかの懸念を引き起こしている。
第1に、雇用主は福利厚生と職場保護をほとんど提供しない。
第2に、「従業員」と「雇用者」という用語の法的定義が曖昧になった。場合によって低賃金、社会的孤立、非社会的で不規則な時間の労働、過労、睡眠不足および疲弊をもたらす。
新聞記事ではない、Wikipedia「ギグワーク」の情報
つまり、p-hailing の世界にも今後は規制をかけていかないと、負のインパクトが出て来る可能性も否めないということのようです。
Gig Work の将来
同じ The Star Newspaper の最近の記事で、p-hailing worker の競争激化が報じられています。つまりライダーが増えていることによる競争、パンデミックが沈静化した以降デリバリー需要が下がっていること、そして配送料金の変化が原因です。
Universiti Sains Malaysia (マレーシア科学大)の教授(Prof. Chin Yee Whah)は、p-hailing で働く人が増えれば、当然単価が下がることになるので、一般の就業環境よりも条件が悪くなるだろうとの見解を示しています。
学者のコメントの中には、「Gig Workが良い仕事といえるのは若いうちであり、結婚して子供ができて家庭を持てば、1年中車やバイクで走り回る生活などできはしない」というものもあるようです。
また、配送サービスにより食品や飲料の売値が高くなっていることを懸念する消費者や利用者の声数年前から上がっていて、食品や飲料を提供する側の質が落ちていることが問題になっていますから、配送サービス側のコミッションを減らす方向への圧力も有ります。
記事を読んでだ筆者の感想としては、
Gig Work 自体、ネット環境やモバイル通信の利便性が生んだシェアサービスのエコシステムですから、新しい経済圏として今後も発展するでしょうが、
自由主義経済であるかぎり、競争激化は避けて通れませんので、今後は、日本食とか中華に特化したフードデリバリや、
これまで p-hailing が浸透していない配送サービス(例えばハウス・キーピングや自家用車の洗車、庭の芝刈り、学校で理解できなかった授業内容の補習サービス等)が出回るのではないかと思われます。
今回参照した新聞報道はこちら。(2023年9月20日付)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。