この投稿は、本編「修行体験」の詳細記事です
修行体験での筆者の師匠であったビンセント氏の商売人としての本意は
「常に正直に取引する」
ということでした。
ビンセントは客先に対して、最初から持っている情報を全部渡すことはしません。
小出しにするという感じです。
ですが、「ここぞ」というタイミングでは、隠すことなく内情を相手に説明。
場合によっては、商品の原価や利益も客先に見せてしまいます。
結果として、利益額を値切られても、良し。
つまり「仕事をもらえない」で終わるより、薄利で受注する道を選ぶわけです。
そういう取引交渉ですから、客先の組織から外に知見のある人財がいれば積極的に社内に招き入れます。
スパイが入って来て内部情報を聴取されてもかまわないぐらいの感覚でした。
そういうビジネス・スタンスが有って初めて、客先は、ビンセントの会社の価値、電材のメーカーと客先との間にビンセントが居る「価値」を感じるわです。
日韓の有識者を取り込んだ営業戦略
2005年当時の話です。
ビンセント社長の会社には2名の外国人が常駐していました。
■ 筆者(日本人で、日本の某エンジ会社を退職したフリーランス)
■ 韓国人のKさん(韓国の某企業の退職者)
この2名は、それぞれ日本と韓国の重要顧客との意思疎通に十二分に活用されていて、説明の難しい問題が起きると、母国語がわかる2名が出て行って解決するのです。
もちろん、日韓両国においては、馬国のビンセントの会社に「元業界人」が在籍していることを知っていました。
客先は、最初は戸惑いますが、次第にこの2名の存在が「便利」と判断するとビンセントの会社への仕事の依頼も増えます。
Kさんも私も、「わけあり」で雇われているので、日本や韓国の側から見ると
「安い給料で我慢しているのかな?搾取されているのでは?」
という一抹の同情心もありながら、
「数千万から億単位の仕事を出しているのだから、しこたま稼いでいるのでは?」
と、「鵜の目鷹の目」だったようです。
こういった微妙な立ち位置にいる筆者にとっても、ビンセントの積極的な情報開示策(原価を隠さず薄利でも取引する)は助かるのです。
良心的だという評価をもらうことは非常に重要でした。
お互いの給与を知らないことは絶対条件
外国人のKさんも筆者も、お互いにどういう処遇で雇われているかは一切会話しません。
ビンセントと従業員個人との秘密保持の関係は絶対的でした。
筆者はKさんが韓国の顧客と何を話し、何を取引していたか全く知りません。
逆にKさんも筆者の仕事には一切干渉しませんでした。
全く同じことが、他の馬国人スタッフにも言えます。
労働組合はありません。
全員が個人としてビンセントと取引して「口頭」で雇われていますから
互いの給与レベルについて一切の情報交換が無いのです。
不満ならいつでも辞めてかまわないのです。
終身雇用はありえない世界
Kさんも筆者も、この会社には長くは勤めていません。
筆者はほぼ2年、Kさんは多分3年ぐらいだったと記憶しています。
そして、筆者が彼らの会社から離れる時には、もう次の日本人の有識者を採用することが決まっていました。
馬国人の従業員も同じです。
優秀な人間は、どうしても独立したがります。
筆者と同じで、だれもが、「自分ひとりで出来る」と思いこむのです。
あれこれと揉めるのですが、ビンセントは結局は彼らをリリースします。
つまり、終身雇用的な配慮は一切ないのです。
「自営業」が高度な特殊技能であることは、やってみなければわかりません。
辞めて行った馬国人で、そのご躍進した例は見当たりません。
筆者もビンセントから離れる際、元の自営業にもどることは考えていません。
「起業する」というのは本当に難しいのです。
お金にならない利益
筆者がビンセントの会社で体験した内容は、その後の筆者の人生に大きく影響しました。
悔しい面もありますが、華人商人のノウハウは日本のビジネス思考を凌駕していると思える場面が沢山あります。
彼から学んだ幾つかの処世術は、日本に復帰してからも実践できましたし、その方法で得られた利益は大きかったのです。
彼らから学ぶことは、謙虚に受け入れるべきでしょう。