この投稿は、本編「がちで起業」の詳細記事(成功事例)です。
マハティール首相が推進してきた政策に「東方政策」、「ルック・イースト・ポリシー」があります。ご存知の方も多いと思います。
この政策は馬国の優秀な学生を日本に留学させて、日本の社会作り、日本人の考え方・生き方を学ぶ機会を与えるという馬国独自の留学制度で、1981年の発足以来、12000を終える馬国人留学生が日本国内の大学を卒業して帰国しています。
留学生は馬国トップクラスの頭脳と人間性を持ついわゆるブミプトラと呼ばれる生粋のマレーシア人です。
筆者の自営業経験で最も幸運で感動的だったことは、この東方政策で日本に留学した人材を2人も直接雇用できたことです。
個人事業でも「ルック・イースト」の卒業生を雇用できる
馬国政府と日本政府の肝入り留学制度で学んだ人材ですから、留学後は恐らく馬国の政府・官庁、でなければ大手企業に就職するのが定石なのでしょう。
ところが、意外にも筆者のような日本人の個人事業にも採用機会があるのです。(少なくとも当時はありました)
筆者が馬国で開業して4年目の2003年。日系の人材会社の紹介で2名の優秀な馬国人女性(仮にBさんとJさん)が入社してきました。
日本語の実力は文字通り「ペラペラ」でした。とくにJさんの日本語は「声だけ」なら全く日本人でした。馬国の衣装とヒジャブ(頭にかぶる宗教的なケープ)ではじめて馬国人とわかる程の実力。
Bさんの日本語も充分堪能で、こちらは民族衣装よりも洋装に慣れていた人(既婚)でしたから、日本の会社の秘書役にぴったりでした。
彼女らは長く日本に住んで日本の文化と生活習慣に精通していましたから、馬国内で日系のお客さんをサポートする上では百人力でした。
事前の訓練無しで、何の心配もなく客先と意志疎通できたのです。
なぜ彼女らが馬国の政府や企業に就職せずに筆者の会社に来たのか、未だに不明です。
おそらくは何らかの理由で日本人が経営する組織に身を置きたいという希望があったのでしょう。2名とも筆者の会社の仕事を気に入ってくれて生き生きと働いてくれました。
給与レベルも特に高額ではありません。無学の馬国人よりは上ですが、筆者や筆者の顧客層が評価してもリーズナブルな範囲だったと記憶しています。
休みませんし、遅刻もしません。約束したことはきちんと履行しました。
人財の強化で事業が進化
2002年以降、日系の顧客だけをターゲットに自営努力を続けていた筆者でしたが、
2名の元留学生がメンバーになった瞬間から、筆者の馬国でのビジネスが本質的に軌道に乗り始めました。
日本語を流暢に話せる社員が2名居ると、KL市内の日系企業が筆者の会社を見る目も微妙に変わってきます。
馬国は英語が通じるとはいえ、日本語が使える馬国の実務支援サービスが馬国内で活用できるとなるのは助かるからです。特に公官庁との意思疎通は非常に重い仕事なので、日本語に精通したアシスタントが居ることが安心感につながるのです。
それまで、筆者は会社を持っていながら「自分自身が客先常駐」して時間単価で切り売りするような運用でした。日系のお客様に対応できる人的リソースが無かったのです。
ルック・イースト卒業生を雇用することで、自転車操業から脱して、自社リソースを稼働させて付加価値を売っていく中小企業経営に舵をきれたのです。
別の記事でお話しましたが、筆者自身の致命的な判断ミスで2004年に個人事業を閉じることになります。それまでの2年間、筆者の事業はこの2名の増員をきっかけに順風漫歩となっていったのです。
3年の我慢が市場の信頼を作る
2003年に筆者がルック・イースト卒業生を雇用できたのは、その時点までの約3年間の自営業の履歴も関係していました。
馬国は人間社会の天井が低い国。ビジネス空間が日本より狭い国です。
日本人のワンマンショーは目立ちます。そして就労ビザや税務申告の記録は全て関係各庁に知れ渡ります。
反社会的な仕事をしたり、不渡りを出したり、馬国人と衝突して警察沙汰をおこしていると仕事は激減していきますし、従業員も離れていきます。
筆者の事業は開業以来3年間「泣かず飛ばず」で、業績的には「骨折り損」でしたが、この3年間をまっとうに過ごしてきたことが会社の無形資産になっていたのだと思います。
3年がんばっていれば馬国内でも、「あの〇〇さんの会社ね」であるとか「あの◇◇◇っている会社があるよ」というように口コミで知れわたっていったのです。
市中の人材派遣会社がルック・イースト卒業生を「ぜひ」ということで紹介してきたのも、過去3年の馬国内の日系社会を微力ながら支援しつづけた実績が背景にありました。
東方政策の今後
在マレーシア日本大使館の東方政策紹介サイトによれば、2023年は東方政策の40周年にあたります。
ウイキペディアを見ると、最近の馬国留学生は徐々に日本から他国に移っているようです。
しかし、東方政策は、マハティール氏の「日本を見よ、日本に学べ」という賢明な示唆と実行力から始まった制度であり、筆者は今後も日本をよく知る留学生が馬国に帰ってくると信じます。
彼(女)らは日本の学卒です。
筆者が個人事業から撤退した頃、弊社に在籍していた2名の転職先はすぐに決まりました。ひとりは日本の自動車メーカーの馬国法人の秘書に転身しました。大出世です。
もうひとりは筆者の友人である馬国人(この人も日本に留学していた人)が営んで成功している設計会社の主要メンバーに転職しています。この会社は非常に高度な設計ノウハウを持った会社(もとは日本や欧米の技術)で、希少価値ですから、今後も心配ないでしょう。
これを読む馬国の起業家の皆さんが、今後もルック・イースト卒業生を積極的に雇用して、彼(女)らに日系ビジネスの整然とした仕事の段取りや誠実な取り引きの本質体験を共有し続けていただくことを推奨したいです。共存共栄です。
外務省情報:2022年は馬国のルック・イースト政策(東方政策)は40周年。在日留学生数は、2021年5月の実績で2,426人(文部科学省、独立行政法人日本学生支援機構)