クリプトカレンシーの話題:唯一無二の定義

番外編

本日は、これといって馬国の話題がありませんので、筆者の専門の一つである暗号資産についてお話しします。

科学技術系の学生や研究者にとっては当たり前のことでも、一般の人々には理解しづらい「暗号資産(または暗号通貨)」について、日本の義務教育では十分に教えているのでしょうか?

おそらく、十分に教えているとは言えないでしょう。そこで、ブロックチェーンのエキスパート認証を持つ筆者(無禄)が、基本的な情報をわかりやすく解説しておこうと思います。

暗号資産という概念は、通貨の代わりであれ、何かの価値を持つ物体や画像であれ、全てが「トランザクション(transaction)」、つまり「取引」として電子的にタグ付けされて管理されます。この「トランザクション」は、例えばビットコインのシステムでは「TX」という略語で表され、要するに「登録番号」のことです。

管理するシステムは俗に「ブロックチェーン」と呼ばれていますが(正式な呼び名ではありませんが、他に適切な表現がないため、世界中でこの名称が使われています)、ブロックチェーンの仕組みは、後日詳しく説明する一群の「取り決め」で管理されるデータベースです。データベースのデータは、順番に番号が付けられ、整然と管理された電子情報です。それ以上でも、それ以下でもありません。

ブロックチェーンが発明される以前の電子データベースでは、採番方法(登録する情報ごとに番号を付ける方法)は、数字のゼロまたは1から始まり、管理システムが許容できる範囲で制限なく増加していきます。

一般のパソコン利用者にとっては、せいぜい6桁程度(百万)を超える登録番号までが限度です。それを超える数億、数十億といった数の登録番号が必要になると、情報の管理が複雑になってきます。

2024年9月時点で、ビットコインのトランザクション(TX)の総数は10億7700万件を超えています。この数値は、ビットコインのブロックチェーンシステムが運用されてから現在までに確認された全取引の累計です。また、1日の取引件数は50万件から90万件程度で、ネットワークの混雑具合によって変動します。

果たしてビットコインは、この先もTXの新規登録の数を許容できるのでしょうか?

答えは「楽勝」です。

暗号資産取引の採番ルール

現存する暗号資産や暗号通貨の仕組みを理解するためには、ブロックチェーンの基本構造を持つビットコインの運用構造を理解する必要があります。全てのブロックチェーン構造のシステムは、ビットコインの運用構造の派生系であり、ビットコインの運用を学んだ開発者だけが暗号資産を扱えるからです。

ビットコインに関する基本的な運用構造として、「TXの採番方法」があります。すなわち、ビットコインの取引と登録のための「唯一無二の番号」をどのように決定するか、という問題です。

TXの採番方法の特徴を簡単にまとめると次のようになります:

– TXの登録番号は1から順番に採番するルールは採用していない。

– 個々のTXの番号は64文字の16進数(hexadecimal)で表される。

– 理論上、この方法で登録できるTXの数は「10の77乗」まで許容可能。

64文字の16進数の決定方法は、ブロックチェーン特有のユニークなルールに基づいていますが、これについては後日解説します。

この「10の77乗」という数字(整数)がどの程度の大きさかを知っていただきたいと思います。

2012年4月11日に日本国内で報道された記事によると、名古屋大学の松岡良樹助教が、惑星探査機「パイオニア10号・11号」が1970年代に観測したデータをNASAから借りて分析した結果、宇宙には数千億個の銀河があることが確実になりました。1つの銀河には数千億個の星があるとされており、その銀河の数を掛け合わせると、宇宙全体の星の数は「数千億個×数千億個」であると判明しました。

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この「数千億個×数千億個」の「宇宙の星の数」を10の乗数で表すと、10の22乗になります。日本の数の数え方では、これは億・兆・京のレベルを超え、「100垓」(英語では「sextillion」)とほぼ同等です。

ビットコインのTXの採番の上限は10の77乗です。これを表現すると「無量大数」を超えるレベルです。星の数を基準にするなら、100垓を単位として100垓 × 100垓 × 100垓、つまり「星の数の3乗」がようやく10の66乗であり、まだビットコインTXの採番の上限値には至りません。100垓 × 100垓 × 100垓 × 1000億(10の11乗)が10の77乗に相当します。

このため、ビットコインのトランザクション(TX)の総数が10億7700万件を超えたといっても、それはせいぜい「10の9乗」の範囲であり、ブロックチェーンのデータベースが許容する上限値には到底及びません。そして、今後100年の間に地球上のすべての取引に番号を付けたとしても、宇宙の星の数の3乗には到達しません。(幼児から高齢者を含む地球の全人口80億人が100年かけて一人当たり100回の取引をブロックチェーンに登録したとしても、「6.4 × 10の22乗」程度にしかなりません。)

この表で見ると 10の77乗は、最下段の無量大数よりさらに大きな数字になる。 出典:Wikipedia 日本語版

唯一無二の定義

以上の仕組みから、ビットコインを代表とするブロックチェーンに格納される全ての取引(トランザクション)の数には、事実上上限がないと言っても過言ではありません。

暗号資産や暗号通貨の各取引は、一度採番されてブロックチェーンのデータとして書き込まれると、その取引は未来永劫「書き換える」ことができない仕組みになっています。

したがって、これらの取引は、1ドルであろうが、100億ドルであろうが、取引を行った側と受け取った側のアカウント(電子的な口座番号と考えて良い)と日時がスタンプされれば、この取引(TX)は、海岸の砂粒の一つのように、この世界において唯一無二の取引として定義できるのです。

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無数の取引への採番ルールが、ほぼ無限の数の取引を許容することについて説明しました。では、暗号資産の運用システムでは、これらの登録データの秘匿性(特定の個人や団体が明らかでないこと)や透明性(データの内容はオープンで誰にでも見える)はどのように扱われているのでしょうか?そのことについては次回お話しします。

筆者とブロックチェーン

筆者は、数年前に米国の Blockchain Council の通信教育講座(有料)を受講して、2021年にCertified Blockchain Expert (CBE)  の認証を受領しました。

この講座で学んだ知識を総合すると以下の通りです。

  • 暗号資産運用の仲介業やネット上のプラットフォームは一切推奨できない
  • Blockchainを個人的に運用できる知見がある人だけが取引すれば有効
  • Blockchainを個人のPCで運用する場合、1テラバイト以上の容量を装備した高性能PCが不可欠
  • もとよりblockchainの運用目的は「支払いを含む取引の合理化」であり、「資産運用」ではない

つまり、「あなたの資産を 暗号通貨を使って資産運用しませんか」という投資商品自体が「欺瞞」であり「詐欺」に他なりません。ご注意ください。

最後まで参照いただき、ありがとうございます。

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