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昨日紹介した馬国での大型のパイプラインの破断と火災について、本日のオンライン記事 (The Star online) に、世界の工業規格・基準に関連した原因究明に関するものが配信されていますので紹介しておきます。
現段階では、件の巨大な炎の柱が出現した原因の解明はできていませんが、この報道にある考え方や専門家の評価は、一部を除き筆者の過去の知見と一致します。
ガスパイプライン火災、爆発原因の徹底調査へ
これ以降は、ひとつのオンライン記事を段落ごとに区切って紹介しています。

【プトラハイツ発】サバン・ジャヤ地区プトラハイツのジャラン・プトラ・ハルモニで発生したガスパイプラインの爆発火災により、深さ10メートルの巨大なクレーターが出現した。周辺の住宅も甚大な被害を受け、現場は壊滅的な状態となっている。発生翌日もなお、数軒の住宅で火災が続いていることが確認された。
安全装置が作動しなかった理由?
マレーシア労働安全衛生協会(MSOSH)のアフマド・ファクルル・アヌアル・イスマイル会長は、「爆発前に安全機構が作動しなかった理由を徹底的に調査する必要がある」と指摘した。さらに、国内に張り巡らされた全長2,500kmに及ぶガスパイプラインの標準運用手順(SOP)を見直し、より厳格化することが求められると強調した。

MSOSHというのは “Malaysian Society for Occupational Safety and Health” の略語です。この団体は、国内の安全基準を取り仕切って管理する権限を持っているわけではなく、安全衛生を啓蒙するための活動を行っています。実際に安全衛生を警察のように「取り締まって」いるのはDOSH (Department of Occupational Safety and Health) です。
この事故では200人以上が負傷し、235軒の建物と399台の車両が被害を受けた。
イスマイル会長は、「通常、ガス漏れが発生した場合、安全警報システムが作動し、大規模な災害に至る前に封じ込められるはずだ。今回のケースではなぜ爆発まで至ったのか、原因を究明しなければならない」と述べた。
また、付近での掘削作業が振動を引き起こし、それが警報を作動させるべきだったのではないかとの疑問も提起した。「パイプライン上部での作業は禁止されており、振動が発生すれば即座に安全警報が作動する仕組みになっているはずだ」と指摘している。

大いに疑問を感じます。昨日解説した通り、高圧ガスのパイプラインは、地盤の振動程度では破断しません。かなり大きな地震が発生した場合でも他の建造物や家屋に比べてはるかに強靭な設備です。振動に対する安全警報についても聞いたことがありません。
20の機関が合同調査を開始
この火災の原因を究明するため、約20の関係機関が合同調査を実施する。調査にはマレーシア王立警察、消防救助局(BOMBA)、国営電力会社テナガ・ナショナル(TNB)、公共事業局(JKR)などが参加し、地方自治体や地区事務所と連携しながら詳細な安全検査が行われる予定だ。

アフマド・ファクルル会長は「調査では環境要因や人的要因など、多角的な視点から事故の要因を分析することが重要だ」とし、「各機関がそれぞれの専門分野に基づいて調査を行う」と説明した。警察は不法侵入や不適切な土地使用の可能性を調べ、消防当局はガス漏れ発生時の火災封じ込めのプロセスを確認するとしている。
また、彼は「SOPが存在していても、それをより厳格にする余地は常にある」と述べ、ガスパイプライン周辺での作業は極めて慎重に行う必要があると警告した。

つまり、パイプラインの運営規則が設定されていても、これを守らない人間が存在する可能性は十分あると認めているわけです。ただし、実際の安全設計の基準を見れば、ちょっとやそっとの人間系のサボタージュでパイプラインが破断するようなことにはなりません。前回の解説通り、何か大きな建設用の重機で能動的に壊すような行為をしないかぎりパイプラインは切れません。
適切な規制の下で敷設されたパイプライン
マレーシアでは、高圧ガスパイプラインは国営企業ペトロナスが、低圧のものはガス・マレーシア社が管理しており、パイプラインの埋設箇所には黄色の警告標識が設置されている。
アフマド・ファクルル会長は、「これらのパイプラインは無秩序に敷設されたものではなく、『1974年石油開発法』『1984年石油安全対策法』『1994年労働安全衛生法』などの法律に基づいて適切に管理されている」と説明した。

その通りです。そしてここに紹介された法規や基準は、先進国で成立した法規や基準が基礎になっていますから、基本的に日米欧のものと同等です。
爆発は BLEVE か
一方、元マレーシア消防救助局長のモハマド・ハムダン・ワヒド氏は、約500メートルにわたるガスパイプラインの火災は、「ボイリングリキッド・エクスパンディングベーパー・エクスプロージョン(BLEVE)」による可能性があると分析した。

石油ガスの専門家から見れば、この指摘は当然のことです。他に爆発の理由はありません。 BLEVE とは “Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion” です。つまり沸騰した液体から立ち上がる気化物質に引火したというわけです。プロパンなどの炭化水素ガスは、基本的に常温では気体なので、常に冷やすか圧力をかけて輸送されます。ですからパイプが破断すれば、圧力が抜けて、温度も瞬時に常温に戻るので「沸騰」するのは当たりまえなのです。液体のまま火がつくということにはなりません。火災に詳しい専門家の発言としては、やや的外れに思えます。
「可燃性ガスが漏れた場合、気化したガスが空中に浮遊し、引火すると大規模な爆発を引き起こす。この際、容器の損傷や破裂、あるいはバルブの開放などが原因となる可能性がある」と説明している。

それはそうです。しかし、ポイントは、かくも頑丈なパイプを破断するほどのインパクトがどのようにしてパイプラインに加わったか?という点にあります。少しピントハズレのご発言です。
また、可燃性液体の保管および輸送には厳格な規制があり、国内のガスパイプラインはすべて国際的な安全基準やマレーシア国内の規制に準拠している。具体的には、『MS830(液化石油ガスの貯蔵・取り扱い・輸送基準)』や『MS761(可燃性液体の貯蔵・取り扱い基準)』が適用されている。
さらに、石油・ガス業界は、『PA55(圧縮ガス及び極低温流体規制)』といった国際基準にも準拠し、ガス漏れ時の爆発・火災リスクを低減するための安全距離が定められている。

前述の通り、国際規格と同じレベルのものです。
「このような火災は周囲の建物に放射熱を及ぼし、二次的な火災拡大の危険性がある」と彼は警告した。

エンジニア協会も調査に協力へ
一方、マレーシア技術者協会(IEM)は、「本件の調査に協力し、政府機関や地方自治体に助言を行う用意がある」と発表した。
「最大の懸念点は、可燃性施設が住宅地に近接していることだ。既存の安全対策が十分であるかどうかを徹底的に見直し、必要に応じて改善することが求められる」とIEMは声明で述べた。

確かに住宅地に近いことは懸念材料です。法規でも、パイプラインは住宅地から一定の距離を置いて設置することが義務付けられていますから、この辺りに違法性がなかったか調べる必要がありそうです。
本件の調査結果に注目が集まっている。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。続報を待ちましょう。