トランプ関税とマレーシア国

馬国

アイキャッチ画像は、一般投稿写真サイトのFlickrに掲載されたSlices of Lightさんの作品でクアラルンプール郊外にある政府施設群(プトラジャヤ)の一角を撮影したもの。転載ライセンスはこちら

筆者は家族とともに、20年間にわたりマレーシアに長期滞在し、現地で働き生活してきました。そのため、日本のメディアでは決して報じられない、マレーシアの実情や本質についてお伝えできる立場にあります。

2025年4月22日、マレーシアの華人系全国紙 *The Star* のオンライン報道によると、同国のアンワル首相(Datuk Seri Anwar Ibrahim)は、記者団の質問に対し、政府施設間を歩いて移動する際にコメントする形で、米国への報復関税について語りました。正式な記者会見ではなく、記者に囲まれながら答えるというスタイルは、現地特有の報道の在り方を象徴しています。

出典:  

[The Star 2025年4月22日報道]

Special Parliamentary sitting to discuss reciprocal tariffs, says Anwar
PUTRAJAYA: A special Parliamentary sitting will be held on May 5 to discuss the issue of reciprocal tariffs recently pro...

マレーシアの輸出とアメリカへの依存

以下は、2023年におけるマレーシアの主な輸出先とその輸出額です。

  • – シンガポール:約481億米ドル(全体の15.3%)  
  • – 中国:約421億米ドル(13.4%)  
  • – アメリカ合衆国:約354億米ドル(11.3%)  
  • – 日本:約193億米ドル(5.9%)

出典:トレンドエコノミー

主な輸出品目には、電子・電気製品(E&E)、石油・ガス、コンピュータを含む機械部品、化学原料、鉄鋼やアルミニウム製品などがあります。なかでも、天然ガスをはじめとする資源エネルギーの輸出においては、アジア諸国との取引が中心であり、米国市場への依存度はそれほど高くありません。

特に、現在の米国は世界有数の資源国となっており、かつてマレーシアが注目されていたエネルギー分野でも、米国側からのニーズは低下しています。

内在する反米意識とその背景

マレーシア国内には、特にマレー系住民の間で、歴史的・文化的背景から反米感情が根強く存在しています。これは、最近の反イスラエル政策と無関係ではありません。米国からはたびたび外交ルートを通じて自制を求められており、パレスチナ問題に関する強硬な発言や行動が注目されています。

2001年の9.11テロ当日、筆者はクアラルンプールで勤務しており、そのとき多くのマレー人が「天罰が下った」と冷ややかな反応を示したことを今でも鮮明に覚えています。我々日本人には理解し難い感情でした。

とはいえ、極端な反米姿勢に振り切れないのは、米国との経済的な結びつきが一定の抑止力となっているからです。たとえば、米マイクロソフト社はマレーシアでの大規模なデータセンター設置を進めるなど、重要な投資先でもあります。米国の民間会社からの投資についてはマレーシア政府が主導して拡大をめざしています。

対米外交の一方で進む「親中路線」

マレーシアは現在、はっきりと親中路線を採っています。これは、親日家で知られたマハティール元首相の退陣以降、後継政権が反動的に中国との関係強化を進めてきた結果です。ナジブ前首相による対中接近政策は、現在も外交方針として継承されています(なお、ナジブ氏は現在、巨額の汚職容疑で収監中)。

アンワル首相(Wikimedia Commons)

中国との経済協力の象徴が「Forest City Project(森林城市建設計画)」です。中国の大手不動産デベロッパー「碧桂園(Country Garden)」と連携し、15兆円を超える規模の都市開発がマレー半島南端で進行中です。このプロジェクトは、碧桂園の経営危機にもかかわらず、マレーシア政府の言論統制によって否定的な報道が抑えられています。加えて、2025年には当該区域が国定免税特区に指定されました。(海外の報道ではこの開発地域はゴーストタウン化しているという評価もありました)

報道によれば、この開発プロジェクトの資金の一部は、現国王イブラヒム・イスカンダル陛下が提供しているともされています。

習近平主席の訪問と文化交流

2025年4月、習近平国家主席が東南アジア歴訪の一環としてクアラルンプールを訪問。アンワル首相は盛大な晩餐会を開き、国民的歌手シティ・ヌルハリザ(Siti Nurhaliza)氏によるパフォーマンスで歓迎しました。彼女は筆者がマレーシアにいた頃から人気で、現在は46歳ながら、依然として国民的な存在です。

日本との距離の変化

筆者が滞在していた頃には、日本人向けに整備された「マレーシア・マイ・セカンドホーム制度(MM2H)」が広く利用されていましたが、現在では中国富裕層向けの制度に変貌し、定期預金額や不動産購入額の大幅な引き上げが課されています。日本人の間では、「もう手が出せない」といった声が多く聞かれます。

なお、現職の文化・芸術・観光大臣である張慶信氏は、政府内では少数派の中国系マレーシア人です。

米中対立と報復関税の行方

アンワル首相は、2025年5月5日の国会で米国への報復関税について議論する予定です。これは明らかに親中路線の延長にあるもので、マレーシアが米中対立の渦中でどのような立場を取るか、注目されています。

補足資料

◉ マレーシアから米国への主要輸出品(2023年)

総輸出額:約1,612億リンギット(約343億米ドル)  

主要品目:

  • 1. 電子・電気製品(E&E):全輸出の約62.8%(主に半導体や集積回路)  
  • 2. 石化製品:精製石油・液化天然ガス(LNG)  
  • 3. 機械・部品:コンピュータなど  
  • 4. 化学製品  
  • 5. 金属製品(鉄鋼・アルミなど)

 ◉ トランプ政権の新関税措置(2025年4月発表)

国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、特定国に対し10%以上の関税を設定。マレーシアも対象国に含まれており、以下のような措置が示唆されています:

  • – 太陽電池モジュール:Jinko Solar製品には41.56%の関税  
  • – 半導体製品:最大25%  
  • – 家具類:最大24%、一部は90日間の猶予措置あり

これらはマレーシアの輸出業者にとって大きな打撃となる可能性があり、現在、政府と民間企業が対応策を協議中です。

筆者としては、マレーシアがいずれまた日本との良好な関係を取り戻し、かつてのように親日国家へと回帰してくれることを願っています。

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

アンワル首相の顔写真についてのライセンス表示(Wikimedia Commons)This image is a work of a United States Department of State employee, taken or made as part of that person’s official duties. As a work of the U.S. federal government, the image is in the public domain per 17 U.S.C. § 101 and § 105 and the Department Copyright Information.

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