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この記事は、本編【MM2H体験】の関連記事です。馬国の「おすすめ情報」まとめ記事はこちらです。
昨日に引き続いて、馬国で急増している金融系の詐欺犯罪について、馬国政府と警察当局が取り組んでいる法整備や国民への注意喚起のキャンペーンを紹介します。
去る、7月5日に、首相府の担当大臣が、銀行口座の不正使用に対処するための法改正を、来る10月までに国家で可決すると言う見通しを発表しました。
5日後、下記オンライン記事の通り、異例の速さで法改正が可決されました。可決されたのは下院議会(Dewan Rakyat) ですが、馬国では下院で可決されれば、よほどの障害が無い限り上院も国王も可決内容を棄却しないので、この法改正が施工されることは間違いなさそうです。
馬国の法案審議についてはこちらに詳しくまとめてあります。
騙されやすいミュール口座の仕組み
政府や警察が銀行詐欺の分野で諸悪の根源としているのがミュール口座です。この記事の後半にウィキペディアの定義を掲載しましたが、このミュール口座は、馬国内に無数に存在していて、詐欺師が他人の金を巻き上げる常套手段となっているようです。
例えば、新手のアルバイトと称して「銀行に口座を開設するだけで小銭が入ってくる」と唆されて、自分名義の口座を開設するとします。最初の預金額はせいぜいRM10(300円)程度でしょう。
このアルバイトでは、口座開設の直後に、その口座番号やPINナンバー、あるいはATMカードをアルバイトの雇い主に明け渡すことが条件になります。自分で大金を預金していないので、そのことで、いきなり現金が取られる心配はなさそうです。
その直後。本人は、なんのことか全く知らされずに、開設した口座が悪用されます。
ある日、その口座に数十万リンギットの金が送金されてきます。もちろん本人には事前の連絡は無いので、本人が送金の事実を知るのは、後日、その本人がアカウントをチェックした場合や、月次の残高証明が送付されてきた時点になります。
送金された数十万がどこからきたのかはよくわかりません。偽名や略語が使われている場合が多いでしょう。
送金された直後(恐らく数秒から数分の間)にそのお金は別の口座に飛ばされます。それを操作するのはアルバイトの雇い主である詐欺集団です。
口座には、例えばRM50ぐらいが手数料として残ります。これが本人へのアルバイト料金です。
このようなプロセスで、金銭が出入りするのは非常に早い手続きで電子的に行われますから、本人は何が起きているのか、すぐに把握することができないわけです。
この事例は、複数の詐欺事例の報道を読んだ筆者が「推定」した違法行為です。他にも、様々な方法で、銀行口座を悪用して他人の金を強奪する犯罪が増加の一途をたどっているのです。
我々日本人にも、詐欺集団の魔の手が伸びてくる可能性があります。今回の法改正では、口座を提供した人間も起訴される可能性が高いです。最大限の注意が必要!
- 自分の家族以外の人物に口座情報を渡さない。
- 他人との共同名義で口座を作る場合には最大限の注意が必要
- いきなり電話してくる警察官や政府の係官は詐欺師です。通話を切りりましょう。
馬国議会がミュール新法を緊急可決
オンライ記事の画像は、7月5日に法案を提出した時点で報道されたものです。この記事の内容よりも5日前のものです。以下の記事内容のアクセスはWednesday, 10 Jul 2024 The Star online です。
Parliament passes Penal Code amendments targeting online fraud
Wednesday, 10 Jul 2024 The Star online
マレーシア下院議会は、2024年の改正法案として、「ミュール」アカウントを使用したオンライン詐欺等の犯罪行為に対応するための刑法(法令574)の改定を、去る水曜日に可決した。議会を主宰した下院議長タン・スリ・ジョハリ・アブドゥルも、法案が多数の支持を得たと公言している。
原文:The Penal Code (Amendment) Bill 2024, aimed at amending the Penal Code (Act 574) to combat online crimes using ‘mule’ accounts for online fraud, was passed in the Dewan Rakyat on Wednesday.Dewan Rakyat Speaker Tan Sri Johari Abdul, presiding over the session, announced that the bill received majority support.
改正法案には、ミュールアカウントに関連する犯罪を扱う新規定として、”金融手段”および”支払い手段”の定義、そして4つの新しいセクションの導入が含まれる。
首相府(法律および制度改革)担当大臣のダトゥク・スリ・アザリナ・オスマン・サイド氏は、法案審議 (reading) の第2回目において、過去3年間のオンライン詐欺による損失額が26億RM(780億円)に上ると発言していた。
審議の場で、アザリナ大臣は、アンワル政権下のマダニ政府を代表して、公共の安全と福祉を強化するため、本改正について超党派での支持を求めると述べていた。
大臣によれば、現在の法律では、特別な権限や合法的な理由が無い限り、自らの銀行口座を第3者に使用させた人物を起訴することができない。
「そのため、既存の刑法の条文の不足を補い、マレーシア国民を詐欺犯罪の被害から守るためには、刑法574条の緊急改正が必要である。この改正は、特にミュールアカウントを含むオンライン詐欺に対処するために包括的で効果的なものを目指している」とした。
アザリナ大臣によれば、マレーシア警察を含む関係当局は、強化された法の執行、作戦、逮捕、および犯罪者の起訴を通じて、オンライン詐欺組織を抑制するためにさまざまな措置を講じる。
また、ミュールアカウントを利用した詐欺活動は、被害者の資金を他の口座に移す前の一時的な保管場所として機能しており、これらの口座が第3者に「リース」されていたり、アクセスを許可されていたことが多いと指摘。
「詐欺犯罪を担当する調査官によると、(ミュール口座の)口座所有者が(違法な資金移動のために)その口座を悪用した犯人の身元を知らない場合、法の執行が極めて困難である。」
馬国の新聞記事用語
英字新聞を参照するときに知っておくと便利。馬国特有の議会用語や表現です。
- Penal Code : 刑法
- online fraud : オンライン詐欺、ネット詐欺
- Dewan Rakyat : 下院議会
- Dewan Rakyat Speaker : 下院議長
- bill : 法案
- reading : 議会で行われる審議
- Madani Government : マダニ政府(人民の政府、2023年以降のアンワル政権の通称)
- bipartisan support : 超党派支援
- existing legislation : 現在の規制(法規制)
- ‘mule’ accounts : ミュール口座
このうち、Dewan Rakyat はマレー語で「公共の会議場」といった意味であるが、馬国内では、これを固有名詞として扱っており、Dewan Rakyat と言えば、下院議会を意味するのと同時に、下院議会ホールを意味する。
英語の speaker は「喋る人、発言する人」あるいは「拡声器、スピーカー」を意味するが、馬国の議会(および外国の議会)では「議長」を意味する。下院議会の議長っは、馬国の議会を切り盛りする強い権限を持っている。
法案(bill) を審議することを reading と呼ぶのはイギリスの政治文化の影響を受けた馬国議会特有の表現。
ミュール口座
「ミュール」は動物の「らば」、「何も知らない作業用の動物」といった意味。
ミュール口座は、金融系の犯罪や詐欺犯人とは無関係な第3者が持っている銀行口座を不正に利用して、被害者が入金してきた金額を詐欺犯の口座に送金するための口座。
ほぼ全ての入金額は詐欺犯の口座に振り込まれるが、ミュール口座の名義人は、預金額の転送を許した見返りに、アルバイト代として口座に残った少額の手数料を受け取る。
一連の入出金操作により、詐欺行為と資金洗浄(マネーロンダリング)の両方を解決する手口である。
詐欺防止アプリ Semak Mule 2.0
Semak Muleはスマホ等で活用する犯罪防止アプリ。Semak はマレー語で「チェック、確かめる、調べる」を意味する。
警察当局の「商業犯罪調査部」が、詐欺行為を阻止するために開発し、2020年から馬国内で広く利用されている。2024年3月4日のThe Star onlineの報道の一部として紹介されてる。
Mule は、マネーロンダリングのような違法行為のために利用される銀行口座(Mule Account)で、このアプリは、詐欺目的で悪用されている「銀行口座」と「電話番号」を、警察当局が管理してネット上にアップロードすることで、利用者が疑わしい口座や電話番号をリアルタイムでチェックできるもの。
Version 2.0 では、口座と電話番号に加え、100社を超える詐欺目的の shell companies の社名も検索できるようにした。shell companies とは架空の会社や会社名である。
商業犯罪調査部の発表によれば、2024年3月までの4年間にアップされた詐欺目的の口座番号 (mule account )は193,000件、詐欺行為に利用された電話番号は164,000件。
マレーシアが抱える悩ましい問題は、このアプリでミュール口座を特定できても、被害者のお金が返ってこないことや、新しいミュールがたくさんアップされて、詐欺犯罪がいっこうに減っていないという問題です。
最後まで参照いただき、ありがとうございます。
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