マレーシアには20歳代の若さで連邦政府の大臣を務めた代議士がいます。
名前はサイド・サディク・ビン・サイド・アブドゥル・ラハマン(通称サイド・サディク)といって、今も現役の代議士です。
31歳の彼は、今まさに大変な苦境にあります。マレーシアが気になる日本の読者の皆さんは、ぜひこの人物のこれからの10年~20年を見守っていただきたいと思います。
筆者は20年以上馬国の政治を第三者として見てきましたが、ここには、欧米や日本の政治の世界とは異質なものがあります。サイド・サディク氏もこの馬国の政治の闇に飲み込まれています。
日本では、政治的に糾弾されると、辞任に追い込まれるケースが殆どですが、馬国の場合は、厳しい告発をうけ、実刑判決が出ます。
現在の馬国首相のアンワル氏も、かつては政治的に糾弾され、有罪となり投獄されるという厳しい経験をしています。馬国の政治家というのは一寸先は闇の世界で生きていると言っても過言ではないのです。 まずは、彼がどのような人物で、どういう状況にあるのかを紹介します。
Syed Saddiq bin Syed Abdul Rahman(以降 サイド・サディク)
サイド・サディクは2018年5月以来、ジョホール州Muar地区の国会議員(MP)として務めているマレーシアの政治家。
マハティール・モハマド前首相率いるPakatan Harapan(PH)政権下で2018年7月から2020年2月のPH政権崩壊まで青年スポーツ大臣を務め、マレーシア史上最年少で連邦政府の大臣となりました。
また、新党であるマレーシア統一民主同盟(MUDA)の創設メンバーであり、2020年9月から2023年11月までMUDAの初代総裁を務めています。
彼はPH連合の元構成政党であるマレーシア統一インディジナス・パーティ(BERSATU)の創設メンバーでもあり、2016年9月の創設以来2020年5月の党除名までBERSATUの初代青年部長を務めました。
2021年、彼は信託違反、資金の不正流用、マネーロンダリングを含む複数の汚職の告発を受けました。2023年11月9日、高等裁判所はシド・サディクに対してすべての汚職の罪状で有罪判決を下し、7年の懲役、1,000万リンギットの罰金、そして鞭打ち2回の刑を宣告しました。(控訴中のため、刑の執行は行われない)
現在、彼はMUDAを代表する唯一の国会議員ですが、2023年11月に有罪判決と7年以上の禁固刑を受けたことで、Muar地区の国会議員としての自動失職が発生する可能性があります。
若き代議士の苦境とは?
彼は馬国政界においては、革新中の革新的存在です。
若いということは、もちろん素晴らしい面もありますが、若者は政治的には非常に弱い存在です。政治の大きな闇に飲まれると、そのなかで卑劣な策略に巻き込まれてしまいます。
サイド・サディクは、我々が誤解しがちな、「そのへんの無学の東南アジア人」ではありません、文末にWikipediaから抜粋しますが、マレーシアのみならず、アジアでトップクラスの優秀な学生でした。純粋な理想を持って政治の世界に乗り出した本物のリーダー各の政治家です。つまらないマネーロンダリングや公金の横領などを画策するようなレベルの低い輩(やから)ではないのです。そのことはマレーシア国民は良く解っています。
これは、筆者の個人的な印象ですが、サイド・サディクは、馬国の政界であまりに自由奔放に理想を追いすぎて、主流派の政治組織の反感を買ってしまったようです。
問題は、これが極めてアンバランスな権力闘争に関係していることです。ある程度力のある政治組織や政党から「敵」とみなされると、その瞬間から徹底した攻撃に晒されます。そして、それを阻止する完全無欠の政治権力は在りません。
かつてのアンワル氏も、副大統領時代に国民の多くが指示していたにも関わらず、政府内の確執の犠牲となっています。最後にアンワルの苦境を救えたのは馬国の国王レベルの采配でした。
サイド・サディクは、有罪判決に対してアピール(控訴)中ですが、彼は記者会見で
「私は、政治家として、白よりももっと白くなければならない」
“As a politician, I need to become whiter than white.”
という名言を残しました。心動かされる発言です。
これは単に「自分は潔白だ」ということを言っているだけではなく、「この国は、潔白よりさらに白くなければ生きていけないという『闇の』一面を持っている」ことを語っていると思います。そして、マレーシアの政界がこのような見苦しい内部抗争を辞めるべきだというメッセージも込められています。
もし、彼がこの苦境を乗り切り、やがて馬国のリーダーとして成長するなら、この言葉は馬国の政治のレベルアップに貢献した名言として歴史に刻まれるでしょう。
現在控訴中のサイド・サディク氏が本当に有罪かどうかは読者のみんなさんの判断によると思いますが、動画サイトで見れる彼の表情や、全国紙の文面を呼んでいただければ、このことが、単なる犯罪の報道ではないことはご理解いただけると思います。
このブログでは、今後もサイド・サディク氏の政治生命と人生をフォローしてゆくつもりです。
日本のメディアにも少しだけ出てきますが、単なる有罪判決の報道だけで、本質的な事実関係は日本では報道されていません。
有罪判決の報道から
New Strats Times の2023年11月の記事です。記事は2つです。
クアラルンプール:
2021年に対して提起されたすべての汚職の告発について、ジョホール州Muar地区の国会議員のサイド・サディク・シド・アブドゥル・ラフマン氏が有罪判決を受けた。
高等裁判所の判事であるダトゥク・アズハル・アブドゥル・ハミド氏は、今日、弁護側が起訴側の事件に合理的な疑念を投げかけられなかったため、この判決を下した。
マレーシア統一民主同盟(Muda)の代表である大臣のゴビンド・シン・デオがサイド・サディクを代表し、副検事総長のダトゥク・ワン・シャハルディン・ワン・ラディン氏が事件を担当した。
2022年10月28日、サイド・サディクは、検察が各告発内容の重要な要素を証明する信頼性のある証拠を提出したと裁判所が判断した後、弁明の機会を与えられた。
2021年7月22日、サイド・サディクは、当時のParti Pribumi Bersatu Malaysia Armada wing chiefとしてArmadaの資金の管理を任されていた身として、Bersatuの補助財務担当者に対して、組織の資金である100万RMの信託違反(CBT)を助長したとして告発されている。
また、Armada Bumi Bersatu EnterpriseのMaybank Islamic Bhd口座に属する12万RMを個人的利益のために不正使用し、関係者に金銭を処分させたとしても告発されている。 また、違法行為の収益とされる2回の取引、合計5万RMが、彼個人の口座から別の口座に送金されたとして、マネーロンダリング2件の告発を受けている。
New Straits Times 2023.11.08
<前半は重複のため割愛します>
刑事訴訟法の289(c)条によると、信託違反の罪状に対しては鞭打ちが義務付けられている。ただし、女性や50歳以上の特別な事情を持つ個人は例外とされる。
かつて同様の有罪判決を受けた元首相のダトゥク・セリ・ナジブ・ラザク氏は、高齢を理由に鞭打ちの対象から免れている。
刑事訴訟法の288(3)条によると、重大な犯罪に対しては直径が半インチを超える太い鞭が指定されているが、同じ法典の288(4)条では、ホワイトカラーの犯罪者向けの軽い鞭も規定されている。
サイド・サディク氏は、(現在の)裁判所の判決を受け入れ、名誉を回復するために控訴審での闘いを続けると述べた。
記者会見でのサイド・サディク氏の発表
「心を開いて受け入れます。私は立法府の公職員として、国の司法制度を信頼しています。弁護士団は控訴審に向けて有利な準備があると話してくれています。私は、政治家として、白よりももっと白くなければなりません」
尚、控訴審を控え、刑の執行を差し止める申し立てが認められている。
(中略)
サイド・サディク氏は記者会見を終えるとすぐに、全ての手続きに同席していた両親と対面。
家族に励まされていました。主任弁護士は、今日中に控訴を申し立てる予定だと述べた。
(以降。罪状の記述は上記と同じ)
New Straits Times 2023.11.09
参考資料 生い立ちと学歴
サイド・サディクは、マレーシアのジョホール州ジョホールバルで1992年12月6日に生まれました。
父はシンガポール人で、かつてシンガポールで建設労働者として働いていました。母親は元英語教師でした。
彼は4人兄弟の末っ子であり、王立軍事カレッジ(RMC)で学び、その後国際イスラム大学マレーシア校(IIUM)で法学士(LLB)を取得。IIUM在学中、アジア圏のディベート大会に参加し、ユナイテッド・アジアン・ディベーティング・チャンピオンシップ(UADC)で優勝。
アジアのブリティッシュ・パーラメンタリー(ABP)ディベーティング・チャンピオンシップでアジアのベスト・スピーカー賞を3回受賞したことで、ディベーティングコミュニティで広く知られています。
2017年以降、マレーシアの政治活動に積極的に関わるため、25歳で国会議員に選出された後、オックスフォード大学での修士号取得の機会を辞退しています。
2021年4月、シンガポール国立大学のリークアンユー公共政策学校でリークアンユー上級公共サービスフェローシッププログラムを修了。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この件は、進展があり次第、続報します。